薬剤師の脳みそ

調剤(保険)薬局の薬剤師が日々の仕事の中で得た知識や新薬についての勉強、問題を解決する際に脳内で考えていることについてまとめるblogです。できるだけ実用的に、わかりやすく、実際の仕事に活用できるような情報になるよう心がけていきます。基本的に薬剤師または医療従事者の方を対象としています。

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SGLT2阻害薬服用中の死亡例報告~これまでの中間報告も振り返る

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(ここからが記事本文になります)

SGLT2阻害剤が発売されてから半年が経過しました。
ナトリウムグルコース共輸送担体2(SGLT2)を阻害することで、糖の尿中排泄を促進するという新作用機序を持つこの薬剤、糖尿病の患者さんが多い薬局では処方に触れることも多いと思います。
ですが、最初に発売されたスーグラ(一般名:イプラグリフロジン)の市販後調査等で、当初予想していなかった重篤な皮膚障害、他の薬剤でも副作用が相次いで報告され、日本糖尿病学会から「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」が発表されたのは記憶に新しいと思います。
http://www.jds.or.jp/common/fckeditor/editor/filemanager/connectors/php/transfer.php?file=/uid000025_7265636F6D6D656E646174696F6E5F53474C54322E706466

今回、各社の中間報告で、計5人の死亡例が報告されました。
SGLT2阻害剤との因果関係は不明となっていますが、今一度、この薬剤の注意点を復習しておく必要があります。

SGLT2阻害剤一覧

まずは現在発売されているSGLT2阻害薬をまとめておきます。

  • スーグラ(一般名:イプラグリフロジン/アステラス製薬、寿製薬、MSD):平成26年1月17日製造承認取得、平成26年4月17日発売開始
  • フォシーガ(一般名:ダバグリフロジン/ブリストル・マイヤーズ、アストラゼネカ、小野薬品工業):平成26年3月24日製造承認取得、平成26年5月23日発売開始
  • デベルザ/アプルウェイ(一般名:トホグリフロジン/興和、興和創薬、サノフィ):平成26年3月24日製造承認取得、平成26年5月23日発売開始
  • ルセフィ(一般名:ルセオグリフロジン/大正製薬、ノバルティスファーマ、大正富山医薬品):平成26年3月24日製造承認取得、平成26年5月23日発売開始
  • カナグル(一般名:カナグリフロジン/田辺三菱、第一三共):平成26年7月4日製造承認取得、平成26年9月3日発売開始

10月上旬に報告された各社の中間報告

9発下旬から10月上旬にかけて各社の市販後調査の中間報告が公開されました。

  • 9月24日 ルセフィ 第4回中間報告(2014年3月24日~9月11日)
  • 10月6日 デベルザ/アプルウェイ 第4回中間報告(2014年3月24日~9月22日)
  • 10月7日 フォシーガ 第4回中間報告(2014年3月24日~9月22日)
  • 10月14日 スーグラ 第6回中間報告(2014年1月17日~9月16日)
  • 10月17日 カナグル 第1回中間報告(2014年7月4日~10月2日)

各薬剤での死亡例の報告

現在発売されているSGLT2阻害剤は5成分ですが、今回の中間報告でそのうち3成分に合計5人の死亡例が報告されています。

イプラグリフロジン(商品名:スーグラ)

平成26年1月17日の製造承認から発売5ヶ月後にあたる9月16日までの期間で、一人の死亡例が報告されています。

イプラグリフロジン服用中に動悸、胸痛、発熱、冷汗が発現し投与を中止したが、その5日後に自宅で倒れているところを発見。
死因、発見時の状況などは不明。

ダバグリフロジン(商品名:フォシーガ)

平成26年3月24日の製造承認から発売4ヶ月後にあたる9月22日までの期間で、三人の死亡例が報告されています。

  • 60歳代男性

併用糖尿病薬:グリメピリド(商品名:アマリール等)、ボグリボース(商品名:ベイスン等)、シタグリプチン(商品名:ジャヌビア/グラクティブ)
服用状況:服薬コンプライアンス不良により血糖値が乱高下
経緯:ダバグリフロジン投与開始約2カ月後、患者自身が低血糖症状を訴えて来院したが、血糖値は160mg/dLで、低血糖の可能性は低く、グリメピリドが中止された。その4日後に倒れて救急車で搬送され、搬送先の病院で死亡した。
死因、詳細は調査中。

  • 60歳代女性

合併症:腰椎すべり症、高血圧、高コレステロール血症、骨粗鬆症
併用薬:イルベサルタン・トリクロルメチアジド配合剤(商品名:イルトラ配合錠)、アスピリン、ニフェジピン(商品名:アダラート等)、ピタバスタチン(商品名:リバロ等)、アレンドロン酸(商品名:ボナロン等)
経緯:ダバグリフロジン開始50日後、自宅の布団の中で死亡しているのを家人が発見。
死亡直前の服薬状況および死因は不明。

  • 50歳代男性(本症例は第3回中間報告から記載あり)

合併症:高血圧、脂質異常症、メタボリック症候群(体重99.4kg)、関節リウマチ
併用薬:グリメピリド(商品名:アマリール等)、ビルダグリプチン(商品名:エクア)、メトホルミン(商品名:メトグルコ、グリコラン等)、プラバスタチン(商品名:メバロチン等)、テルミサルタン・ヒドロクロロチアジド配合剤(商品名:ミコンビ配合錠)、ニフェジピン(商品名:アダラート等)、センノシド(商品名:プルゼニド等)、酸化マグネシウム、抗リウマチ薬(ステロイド、免疫抑制薬=詳細不明)
経緯:ダバグリフロジン開始46日後に下痢、嘔吐、倦怠感、発汗を訴え、補液開始15分後にショック状態となったため救急蘇生術を施行、救急隊により他院搬送されたが、約9時間後に死亡。

トホグリフロジン(商品名:デベルザ/アプルウェイ)

平成26年3月24日の製造承認から発売4ヶ月後にあたる9月22日までの期間で、一人の死亡例が報告されています。

  • 60歳代男性

合併症:慢性心不全、低酸素症、発作性心房細動など
経緯:トホグリフロジン開始119日目、下痢・嘔吐が頻回に発現していたが水分摂取が不十分であり、脱水により高血糖昏睡が発現し死亡に至ったとみられる。
脱水の原因として、本剤以外に、下痢、嘔吐、入浴による発汗、利尿薬併用が考えられた。

ルセオグリフロジン(商品名:ルセフィ)とカナグリフロジン(商品名:カナグル)

他2成分に関しては死亡例は報告されていません。

  • ルセオグリフロジン(商品名:ルセフィ):平成26年3月24日の製造承認から発売16週後にあたる9月11日までの期間で死亡例なし
  • カナグリフロジン(商品名:カナグル):平成26年7月4日の製造承認から発売1ヶ月後にあたる10月2日までの期間で死亡例なし

死亡例の比較

報告されている5人の死亡例のうち、フォシーガによるもののうちの2人とデベルザ/アプルウェイによる1人は脱水症状に起因するものに思えます。

SGLT2阻害剤についてあらためて考えてみる

SGLT2阻害剤による有害事象について考える際、その作用機序をしっかり復習しておく必要があります。

SGLT2阻害剤の作用機序

SGLT2阻害剤は、その名前の通り、Na共役能動輸送性糖輸送担体(Sodium GLucose co-Transporter:SGLT)2を阻害することにより効果を発揮する薬剤です。
SGLTは現在6種類が知られており、それぞれ体内での分布が異なります。

  • SGLT1:小腸、腎
  • SGLT2:腎
  • SGLT3:小腸、骨格筋
  • SGLT4:小腸、肝、腎、胃、肺
  • SGLT5:腎
  • SGLT6:腎、脳、脊髄、小腸

SGLTは、Na+/K+ATPase によって形成された細胞内外のナトリウム勾配を利用して、ナトリウムとグルコースを細胞内に取り込む働きを持っています。
ナトリウムとグルコースの細胞内への取り込みが行われる場所により、生体内での役割は異なります。
その中で、腎に多く分布するSGLT2は尿細管における糖の再吸収の90%を担っており、これを選択的に阻害することで、近位尿細管における糖の再吸収のみを抑制するように設計された薬剤がSGLT2阻害剤です。

SGLT2阻害剤は利尿剤?

SGLT2阻害剤は糖の尿中排泄を促進する作用を持つ反面、ナトリウムの尿中排泄も促進します。
結果、尿の濃度が濃く(高張尿)なり、生体内の等張に向かう性質により、水分の排泄が促進されます。
SGLT2阻害剤の継続服用により、尿量が1日あたり200~600mL増加するといわれてます。
これは、利尿剤の作用と同様で、尿中へのナトリウム排泄が促進された結果、水分の排泄が促進されるということです。

通常は、SGLT2阻害剤により、近位尿細管でのナトリウムの排泄が促進されても、その後、遠位尿細管等でナトリウムの再吸収が行われ、ナトリウムや水分の排泄はある程度抑制されるはずです。
ですが、利尿剤、特にサイアザイドのような遠位尿細管でのナトリウムの再吸収を抑制する薬剤を併用している場合はどうでしょうか?
結果として、脱水、低ナトリウム血症のリスクが高まります。
脱水は高血糖症状の急激な悪化や、心筋梗塞、脳梗塞などの発症を引き起こします。
また、脱水症状はビグアナイドによる乳酸アシドーシスのリスクを高めます。

ですので、SGLT2阻害剤 = 利尿剤と考えて使用することが改めて重要なのではないかと思います。
他の利尿剤を服用しているところに、SGLT2阻害剤が加われば、糖の薬が増えたと同時に、利尿剤の併用が開始になると考える必要があるわけです。
また、下痢や嘔吐、激しい発汗を伴うシックデイの際は、SGLT2阻害剤を休薬するよう指導する必要があります。

これらのことはSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendationにも記載されています。

SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation

脱水を含めた様々な副作用に対する注意喚起がまとめられています。
中間報告でもこれらの副作用が多く見受けられます。

Recommendation

  1. インスリンやSU薬等インスリン分泌促進薬と併用する場合には、低血糖に十分留意して、それらの用量を減じる(方法については下記参照)。インスリンとの併用は治験で安全性が検討されていないことから特に注意が必要である。患者にも低血糖に関する教育を十分行うこと。
  2. 高齢者への投与は、慎重に適応を考えたうえで開始する。発売から3ヶ月間に65歳以上の患者に投与する場合には、全例登録すること。
  3. 脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること。利尿薬との併用は推奨されない
  4. 発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する
  5. 本剤投与後、薬疹を疑わせる紅斑などの皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し、皮膚科にコンサルテーションすること。また、必ず副作用報告を行うこと。
  6. 尿路感染・性器感染については、適宜問診・検査を行って、発見に努めること。問診では質問紙の活用も推奨される。発見時には、泌尿器科、婦人科にコンサルテーションすること。
  7. 原則として、本剤は当面他に2剤程度までの併用が推奨される。

低血糖

糖尿病治療薬である以上、低血糖に関するリスクは当然、考慮する必要があります。
特にインスリン製剤とSU剤については十分な注意が必要です。
SU剤の併用については、下記の通りDPP4阻害剤と同様の減量が推奨されています。

SGLT2阻害薬とインスリン製剤の有効性及び安全性は治験では検討されていないことも留意しなければならない。従って、止むを得ずインスリン製剤との併用する場合には、低血糖に万全の注意を払ってインスリンを予め相当量減量して行うべきである。
また、SU薬にSGLT2阻害薬を併用する場合には、DPP-4阻害薬の場合に準じて、以下の通りSU薬の減量を検討することが必要である。

  • グリメピリド2mg/日を超えて使用している患者は2mg/日以下に減じる
  • グリベンクラミド1.25mg/日を超えて使用している患者は1.25mg/日以下に減じる
  • グリクラジド40mg/日を超えて使用している患者は40mg/日以下に減じる

皮膚症状

当初は予想されていなかった副作用だったため、スーグラの第1回中間報告で多くの人が衝撃を受けた重篤な皮膚症状にも注意が」必要です。
今のところ、特にスーグラでの報告が多く見られるようです。
これに関しては服用開始の患者さんに対して、慎重に説明を行う必要がありますね。

尿路感染・性器感染

尿路感染・性器感染の報告もだんだんと増えています。
細菌の栄養分である糖が尿中に排泄されるため、感染症が起こりやすくなるのは当然のことといえます。
なかなか口頭では確認しにくいケースも考えられるため、各社より問診用の用紙が配布されているので、それを活用するのも一つの方法だと思います。

ケトアシドーシス

インスリンの中止、極端な糖質制限、清涼飲料水多飲などを原因とするケトアシドーシスが報告されています。
血糖コントロールが良好でも血中ケトン体の増加が認められることがあるので注意が必要です。
インスリンの不足により、血中の糖分を細胞内に取り込むことができなくなった結果、細胞が飢餓状態を脱するため、脂肪酸のβ酸化が進んだ結果、ケトン体が過剰に生産されることでケトアシドーシスが起こります。
SGLT2阻害剤の使用により、血糖値が下がった状態では、ケトン体の上昇が見られます。
単独ではケトアシドーシスが起こることはないといわれていますが、

  • インスリンを中止したケース
  • インスリン欠乏が進んでいるケース
  • 糖質制限を行っているケース
  • 清涼飲料水多飲による一時的なインスリン欠乏が起こっているケース

では注意が必要となります。

SGLT2阻害剤は血糖降下剤かつ利尿剤

これは作用機序を考えると当たり前のことなのかもしれませんが、どの程度認知されているのでしょうか?

低血糖やケトアシドーシスは糖尿病治療薬としての特徴と考えればわかりやすいので、対応しやすいかと思います。
皮膚障害や尿路感染症はこの薬剤の特徴ですね。
そして、脱水と言うのは利尿剤としての性質に由来するものです。

薬の副作用を考える際に、薬剤としての性質、作用機序に由来するものに関してはしっかり理解しておかないと、そこから派生する様々な有害作用について予想を立てにくくなります。

SGLT2阻害剤については過去にも何度かまとめていますが、糖尿病治療薬の中でも特殊な性質をもつ薬剤だと思います。
(どの薬も勉強すればするほど特殊性を持っていますがSGLT2阻害薬についてはそれが表立ってます)

血糖降下剤の顔と、利尿剤との顔を持つ部分が、完全に浸透するまではまだ時間がかかりそうな気がします。
ひとつの薬剤が持つ多面的な作用を頭に入れるのはもちろんのことで、しっかりと身に着けた上で、日々の業務に臨まないといけませんね。

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