薬剤師の脳みそ

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バニヘップカプセル(バニプレビル)承認〜国内4剤目のHCVプロテアーゼ阻害薬

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平成26年9月26日、新たなHCVプロテアーゼ阻害剤 バニプレビル(VPV、商品名:バニヘップ)が承認されました。
テラプレビル(商品名:テラビック)、シメプレビル(商品名:ソブリアード)、アスナプレビル(商品名:スンベプラ)と同じ作用機序によりHCVの増殖を抑制する、国内四剤目のNS3/4Aセリンプロテアーゼ阻害剤です。

バニヘップカプセルの承認内容

承認内容は以下のとおりです。

  • 商品名:バニヘップカプセル150mg
  • 一般名:バニプレビル
  • 申請者:MSD株式会社
  • 効能・効果:セログループ1(ジェノタイプⅠ(Ⅰa)又 はⅡ(Ⅰb))の C型慢性肝炎における次のいずれかのウイルス血症の改善
  1. 血中HCV RNA量 が高値の未治療患者
  2. インターフェロンを含む治療法で無効又は再燃となった患者
  • 用法・用量:本剤は、ペグインターフェロン アルファ-2b(遺伝子組換え)及びリバビリンと併用すること。
  1. 血中HCV RNA量が高値の未治療患者、あるいはインターフェロンを含む治療法で再燃となった患者に使用する場合:通常、成人にはバニプレビルとして1回300mgを1日2回、12週間経口投与する。
  2. インターフェロンを含む治療法で無効となった患者に使用する場合:通常、成人にはバニプレビルとして1回300mgを1日2回、24週間経口投与する。

他のプロテアーゼ阻害剤との比較

バニプレビルは第二世代プロテアーゼ阻害剤に位置づけられますが、他のプロテアーゼ阻害剤とはどのように異なるのでしょうか?
そこに注目して承認内容を見てみましょう。

効能・効果

適応に関しては、テラビック、ソブリアードとほぼ同じで、セログループ1(ジェノタイプI(1a)又はII(1b))のC型慢性肝炎になります。
※ただし、テラビックは2014年9月にセログループ2(ジェノタイプIII(2a)又はIV(2b))のC型慢性肝炎への適応も取得しています。

用法・用量

併用できる薬剤

バニヘップカプセルも、テラビック、ソブリアードと同様にPEG-IFNおよびRVBとの3剤併用療法に使用されます。
ただし、IFNはPEG-IFN α-2b、つまりペグイントロンのみとの併用となっており、そのため、RBVはレベトールということになります。
つまりバニヘップカプセルは、ペグイントロンとレベトールとの併用でのみ使用可能ということになります。
※ソブリアードはPEG-IFN α-2aとPEG-IFN α-2bのどちらとも併用可能なので、ペグイントロン+レベトールのみでなく、ペガシス+コペガスとの併用も可能です。

服用方法

バニヘップカプセルの服用方法は1日4カプセルを1日2回にわけて服用となっています。
テラビック錠は1日9錠を1日3回毎食後(ただし、8時間ごとの服用と高脂肪食の後の服用が推奨)となっており、ソブリアードカプセルは1日1カプセルを1日1回となっています。
テラビックほど、服用の縛りはきつくないものの、ソブリアードに比べると服用回数・服用量ともに多くなっています。

服用回数1回量服用間隔食事内容
テラビック3回3錠8時間ごと高脂肪食後
ソブリアード1回1cap--
バニヘップ2回2cap--
こうしてみると、バニヘップの服用しやすさは他と比較して中くらいといったところでしょうか?

服用期間

服用期間は過去未治療、過去治療再燃の場合は、3剤併用療法(VPV/PEG-IFN/RBV)12週間+2剤併用療法(PEG-IFN/RBV)12週間となっており、テラビック、ソブリアードの基本的な服用期間と同じです。
特徴的なのは過去治療無効の場合で、3剤併用療法(VPV/PEG-IFN/RBV)を24週間継続となっています。
プロテアーゼ阻害剤を24週間継続するのはDCV/ASV併用療法のみで、IFN併用例ではバニヘップのみとなります。
服用期間を比較してみると各プロテアーゼ阻害剤の特徴が見えてきますね。
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バニプレビルの特徴

ここまでまとめましたが、バニプレビルの特徴は3剤併用療法を24週間継続可能な前治療無効の症例にあることがわかると思います。

3剤併用療法の効果

バニプレビルを用いた3剤併用療法による臨床試験の結果を見てみます。

  • 初回治療例

バニプレビルを用いた場合、SVR24率(治療終了後24週にHCVが未検出を達成した割合):83.7%
試験自体が異なるので直接の比較を行うことはできませんが、テラビックの場合は73.0%、ソブリアードの場合は91.7%です。

  • 前治療再燃例

前回別の治療を行ったが再びウイルス量が上昇してしまったケースに対しての治療効果です。
バニプレビルを用いた場合のSVR24率は92.0%。
ソブリアードの場合は89.8%です。

  • 前治療無効例

無反応例のみだとSVR24率は55.2%、部分反応例も含めると61.9%(部分反応例のみだと76.9%)です。
ソブリアードの場合は、50.9%です。

以上からバニプレビルは前治療無効例のおよそ6割に対して効果を発揮することができるという特徴を持つことがわかります。

耐性ウイルスに対する効果

バニプレビルは耐性ウイルスに対する効果が検討されているのも一つの特徴となります。
耐性変異ウイルス検出例に対するSVR24率は、初回治療例87.7%、前治療再燃例100%、前治療無効例56.0%となっています。
全症例では、初回治療例83.7%、前治療再燃例92.0%、前治療無効例61.9%なので、耐性変異ウイルス存在に関わらず効果を発揮できることがわかります。

このことから、バニプレビルは、テラプレビルやシメプレビルに対する耐性を保持しているウイルスに対しても効果を発揮することが予想されます。

以上より、バニプレビルは、すでに他のプロテアーゼ阻害剤による3剤併用療法を行ったが効果を得ることができなかった症例に対して、大きな選択肢となり得ることがわかります。

バニプレビルの問題点

薬物相互作用

バニプレビルは主にCYP3Aによって代謝されます。
また、バニプレビルはOATP1B1及びOATP1B3の基質です。
この性質から、併用禁忌に指定されている薬物や食品が存在します。

併用禁忌
  • リファンピシン(商品名:リファジン等)

リファンピシンのOATP1B1及びOATP1B3阻害作用により、バニプレビルの肝取込みが抑制され、血中濃度が上昇する可能性。
また、CYP3A誘導作用を発現するためバニプレビルの代謝が亢進され、血中濃度が低下する可能性。

  • リファブチン(商品名:ミコブティン)
  • カルバマゼピン(商品名:テグレトール等)
  • フェニトイン(商品名:アレビアチン等)
  • フェノバルビタール(商品名:フェノバール等)
  • セイヨウオトギリソウ(St. Johnʼs Wort:セント・ジョーンズ・ワート)含有食品

CYP3A誘導作用によりバニプレビルの代謝が亢進され、血中濃度が低下する可能性。

  • コビシスタット含有製剤(商品名:スタリビルド)
  • インジナビル(商品名:クリキシバン)
  • イトラコナゾール(商品名:イトリゾール等)
  • リトナビル(商品名:ノービア)
  • ボリコナゾール(商品名:ブイフェンド)
  • クラリスロマイシン(商品名:クラリス、クラリシッド等)
  • ネルフィナビル(商品名:ビラセプト)
  • サキナビル(商品名:インビラーゼ)

CYP3Aに対する阻害作用により、バニプレビルの代謝が抑制され、血中濃度が上昇する可能性。

  • シクロスポリン(商品名:サンディミュン、ネオーラル等)
  • アタザナビル(商品名:レイアタッツ)
  • ロピナビル・リトナビル(商品名:カレトラ)
  • エルトロンボパグ(商品名:レボレード)

OATP1B1及びOATP1B3阻害作用により、バニプレビルの肝取込みが抑制され、血中濃度が上昇する可能性。

併用禁忌がけっこう多くなっています。
セイヨウオトギリソウやクラリスロマイシンが禁忌となっているのでここは注意が必要ですね。

副作用

バニプレビル由来の副作用として、消化器系への副作用(およそ3割)が挙げられます。
その多く(58%)は投与開始15日以内に出現しています。
添付文書の消化器系の副作用を見ると、以下の副作用が5%以上の頻度で出現しています。
悪心、腹部不快感、上腹部痛、口唇炎、便秘、下痢、消化不良、口内炎、嘔吐
投与開始時はこれらに対するフォローが必要となりますね。
もちろん、IFN、RBV由来の副作用である、インフルエンザ様症状や貧血、鬱なども存在するのでそちらに対するフォローも大切です。

まとめ

服用しやすさ等ではソブリアードに遅れを取っていますが、耐性ウイルスや前治療無効例に対する効果が高いため、テラビックやソブリアードによる治療に失敗した方に取っては重要な選択肢となります。
IFNフリーによる治療開始後の販売とはなりますが、IFNフリー治療は第一選択ではありませんし、耐性ウイルスの懸念があります。
また、IFNを使用しない治療において、どの程度肝がんの出現を抑えられるかも明らかになっていません。
そういった意味ではプロテアーゼ阻害剤を用いた3剤併用療法はまだまだ重要で、バニプレビルがラインアップに加わることは大きいと思います。

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