薬剤師の脳みそ~薬局薬剤師の勉強ブログ~

調剤(保険)薬局の薬剤師が脳内で考えていることや仕事の中で得た知識をまとめるblogです。できるだけ実用的に、わかりやすく、実際の仕事に活用できるような情報になるよう心がけていきます。基本的に薬剤師または医療従事者の方を対象としています。

ゼプリオン ブルーレター発出〜関連薬の復習をしながら考えてみる

ニュースで話題となっているので皆さんご存知とは思いますが、ゼプリオン水懸筋注(一般名:パリペリドンパルミチン酸エステル)で、因果関係は不明ながら短期間で複数の死亡例が報告されているため、使用上の注意改定とブルーレターのによる注意喚起が行われました。
※2013年11月19日の販売開始以降、2014年4月16日までに21例の死亡症例が報告
統合失調症治療薬「ゼプリオン水懸筋注」に関する安全性速報(ブルーレター)の発出について |報道発表資料|厚生労働省
この数字はあくまで、因果関係は不明なまま、全ての死亡数なので、ゼプリオンによるものかどうかはまだ不明と言うことが大切です。
今後の調査が進むまで、何とも言えないのが現状ですね。
まずはゼプリオンについて復習。

ゼプリオンとインヴェガとリスパダール

ゼプリオンとは何かと言うと、インヴェガ錠(パリペリドン)の持効性製剤です。
じゃあ、インヴェガ錠は?と言うと、リスパダール(リスペリドン)の活性代謝物を用いた徐放化製剤となります。

SDA

パリペリドンもリスペリドンも非定型抗精神病薬のうち、セロトニン・ドパミン遮断薬(Serotonin-Dopamine Antagonist:SDA)に分類されます。
抗精神病薬は中脳辺縁系のドーパミンD2受容体を遮断することで効果を発揮します。
ですが、中脳黒質経路、漏斗下垂体経路、前頭前野経路においてもD2遮断作用を発揮するため、錐体外路症状、高プロラクチン血症、陰性症状などの副作用を引き起こしてしまいます。
古典的な定型抗精神病薬ではこれらの副作用が問題となるのですが、SDAはドパミンD2受容体拮抗作用に加え、中脳辺縁系以外のセロトニン5-HT2A受容体の遮断作用を有しています。
セロトニン5-HT2A受容体を遮断することでドパミンの遊離が促進され、D2受容体遮断作用と拮抗し、副作用を抑えるというわけです。

錐体外路障害やプロラクチン血症といった副作用が少なく、陽性症状だけでなく陰性症状にも効果があるというメリットから非定型抗精神病薬(第二世代抗精神病薬)の使用が促進されてきましたが、大規模臨床試験においては定型、非定型の抗精神病薬の副作用に大きな差がないよいう結果も出ており、非定型抗精神病薬の有効性・安全性に関しては議論が続けられているというところもあります。

リスパダールとインヴェガ

リスペリドン

リスペリドンは日本で最初に販売されたSDAです。
錠剤のほかに、OD錠、細粒、内用液と多くの剤形が販売されています。
古い非定型抗精神病薬ということで、性質的には定型抗精神病薬に近く、用量依存的に錐体外路障害やプロラクチン血症が出現するし、陽性症状に対する効果が強く、陰性症状に対する効果はそれほど強くないです。
なので、ハロペリドール(セレネース)等に近いイメージがあります。

インヴェガ

インヴェガはリスペリドンの活性代謝物である9-ヒドロキシリスペリドン(パリペリドン)を主成分とした徐放製剤です。
リスペリドンはCYP2D6とCYP3A4による代謝を受けますが、その代謝物であるパリペリドンは代謝酵素による影響を受けないため、個人差が少なく、安定した効果を発揮できることが特徴です。
パリペリドンとリスペリドンの効果はほぼ同等と言われていましたが、細かい違いが明らかになっています。
中枢でのドパミンD2受容体の占有率が同等ですが、パリペリドンの方がドパミンD3受容体・アドレナリンα2受容体阻害作用が強く、セロトニン/ドパミン濃度比が低いようです。

徐放化にはOROSというDDS(Drug Delivery System)技術が採用されています。
浸透圧勾配を利用した放出制御機構で、多層構造のコアを硬い半透過性膜でコーティングした構造をしています。
外部と内部の浸透圧差により水を内部に取り込み、水を吸収して膨張した多層構造のコアが押し出すようにして薬物を徐々に放出します。
これにより、一日一回の服用で安定した血中濃度を維持することが可能となっています。(リスペリドンは1日2回)
また、血中濃度の上下が少ないので、副作用が出たり(血中濃度上昇しすぎ)、薬が切れたり(血中濃度低下)することなく、治療を継続することが可能なのが最大のメリットです。

切り替えの際はリスペリドン1に対してバリペリドン2、リスパダール 3mg/日→インヴェガ 6mg/日 です。

用法は一日一回朝食後。

食後となっているのは空腹時と比較した場合、食後の方が血中濃度が高いため。
(オロスの性質上、消化管の排泄速度が影響?)

朝食後となっているのは朝排便を行う人が多いためです。
腸内に留まって薬物を放出するため、排便してしまうと十分にパリペリドンを放出しないまま排出される可能性があると考え、その用法で臨床試験を行ったためです。
午後に服用してはいけない訳ではないですが、朝排便を行う場合は排便後の朝食後が勧められます。

リスパダールコンスタ

2週間に1回の投与でリスペリドンの血中濃度を維持できるようにした持効性注射製剤(long-acting injection:LAI)がリスパダールコンスタです。
リスパダールコンスタにおいて、リスペリドンは生体内分解性ポリマーであるマイクロスフェアに封入されています。
生理的条件下(pH及び温度)において、マイクロスフェアが加水分解を受ることで、リスペリドンが徐々に放出されます。
筋注後約3週間は、マイクロスフェアは安定しており、その後、水和が始まるとリスペリドンが継続的に放出されます。
そのため、効果が出るまでの約1ヶ月は、移行期間としてリスパダールを服薬しなければなりません。

内服との比較は内服2mg/日→コンスタ25mg、内服3mg/日→コンスタ37.5mg、内服4mg/日→コンスタ50mgとなっています。
リスペリドンの服用経験のない場合は投与前にリスペリドンの服用が勧められています。
一度、体内に入るとなかなか消失しないので、アレルギーなどのリスクを考えると当然ですね。

ゼプリオン

インヴェガのLAIとして登場したのが、ゼプリオン水懸筋注です。
ナノクリスタルテクノロジーを用いることにより、パリペリドンパルミチン酸エステルを微細粒子化し、水性懸濁液としています。
主成分のパリペリドンパルミチン酸エステルは投与部位で少しずつ溶解、加水分解を受け、活性本体であるパリペリドンとなり、数週間にわたり緩徐に全身循環に移行します。

添付文書を見ると、用法・用量には以下のように記載されています。

通常、成人にはパリペリドンとして初回150mg、1週後に2回目100mgを三角筋内に投与する。その後は4週に1回、パリペリドンとして75mgを三角筋又は臀部筋肉に投与する。なお、患者の症状及び忍容性に応じて、パリペリドンとして25mgから150mgの範囲で適宜増減するが、増量は1回あたりパリペリドンとして50mgを超えないこと。

ゼプリオン 初回150mg、1週後に100mg投与で、インヴェガ錠6mgと同等の血中濃度となります。
その後は4週間に1回75mgの注射でその血中濃度を維持することが可能です。

リスパダールコンスタと同様、リスペリドンやインヴェガの服用経験のない場合は、投与前にリスペリドンもしくはインヴェガの服用が勧められています。
リスパダールコンスタと異なるのは、投与開始後、即、血中濃度が上昇するために、初日からゼプリオンのみでパリペリドンの血中濃度をコントロールできるということです。

ゼプリオンのブルーレター

ゼプリオンはアメリカで2009年に初めて承認され、その後、現在では60以上の国と地域で処方のようです。
日本で販売が開始されたのは昨年11月19日。
ゼプリオンと死亡の因果関係はあくまでも不明ですが、五ヶ月と言う短期間で21例の死亡症例が出ていることを受け、適正使用を徹底するためにブルーレターが出されました。

ブルーレターには以下の適正使用が推奨されています。

  • 急激な精神興奮等の治療や複数の抗精神病薬の併用を必要とするような不安定な患者には使用しないでください。
  • 本剤及びリスペリドンの主活性代謝物はパリペリドンです。リスペリドン持効性懸濁注射液(販売名:リスパダール コンスタ筋注用 25mg, 37.5mg,50mg)から本剤への切替えにあたっては、過量投与にならないよう、用法・用量に注意してください。
  • パリペリドン又はリスペリドンでの治療経験がない場合は、まず、一定期間経口パリペリドン又は経口リスペリドンを投与して症状が安定していることを確認した後、これら経口剤を併用せずに本剤の投与を開

始してください。

抗精神病薬と突然死

そもそも統合失調症自体、平均余命が10~23年程度短くすることが知られています。
これは統合失調症自体の病態によるものもありますし、抗精神病薬の副作用も一因とされています。

また、抗精神病薬内服中に死亡リスクが上昇するというのはよく知られている話です。
実際、添付文書に突然死が記載されている抗精神病薬をざっと挙げてみると以下のとおり。
インヴェガはありませんが、リスパダールには記載があります。
ゼプリオンにもつい先日追加されています。

定型抗精神病薬

クロルプロマジン(コントミン、ウィンタミン)、レボメプロマジン(ヒルナミン、レボトミン)、フルフェナジン(フルメジン、フルデカシン)、プロペリシアジン(ニューレプチル、アパミン)、ペルフェナジン(ピーゼットシー、トリラホン、トリオミン)、ハロペリドール(セレネース、ハロステン、ハロマンス、リントン)、ブロムペリドール(インプロメン)、チミペロン(トロペン)、スピペロン(スピロピタン)、ピモジド(オーラップ)、スルトプリド(バルネチール、バチール)、クロルプロマジン・プロメタジン・フェノバルビタール(ベゲタミン)、モサプラミン(クレミン)

非定型抗精神病薬

リスペリドン(リスパダール)、ペロスピロン(ルーラン)、クエチアピン(セロクエル)、オランザピン(ジプレキサ)、アリピプラゾール(エビリファイ)、クロザピン(クロザリル)

突然死のリスク

統計的には、抗精神病薬の有無で突然死のリスクは1.6~1.7倍くらいになるようです。
原因としてはQT延長などの不整脈や高血糖が考えられますが、体重増加なども要因かもしれません。
日本国内での大規模臨床試験によるデータは存在しないと思います。

ゼプリオンによる死亡リスク

さて、今回のケース。
推定使用患者数10900人に対して、報告死亡者数が21人。
単純に考えると0.19%ということになります。
非常に高いです。
ですが、症例を見てみると、さすがにゼプリオンとは関係ないだろうと言うものや、死因すら記載されていないものまで様々です。

ブルーレターに記載されている症例は14例。
死因の記載なしが6例、心臓関連と思われるのが4例。
報告の詳細な記載が少なく何とも言えないと言うのが現実です。
0.19%と言うのはさすがに高すぎますし、調査を進めて行く中で他の抗精神病薬と同じくらいかもしくは少し高いくらいに落ち着くのではないかと言う風に思います。

ゼプリオンの死亡リスク増加について考える

今回の突然死の多さについて納得できないのは以下の理由です。

  • 海外ではこれだけの死亡例が報告されていないこと。
  • パリペリドン自体が国内で使用されている薬物であること。
  • パリペリドン自体が活性本体であり、代謝酵素などの人種差•遺伝子多型の影響が考えられないこと。

そんなことがあるかどうかはわかりませんが、もし、日本人のみゼプリオンの有害事象が起こりやすいのであれば、特定の遺伝子により、加水分解の効率が異なり、パリペリドンの血中濃度が急上昇してしまうと言うケースくらいしか考えられないのですが、聞いたことがありません。

ゼプリオンと他の抗精神病薬の併用

先ほどのブルーレターに記載されていた症例14例のうち、何らかの抗精神病薬を併用していたケースが12例あります。
リスペリドンを併用していたのが4例、そのうち1例はリスペリドンに加えてパリペリドンも併用しています。
このことから、少なくとも12例に関しては重度の統合失調症だったことが予想されます。
統合失調症自体の死亡リスクもありますし、他の抗精神病薬を長年にわたって服用してきている可能性もあります。

ただ、一つ気になるのが、他の抗精神病薬を服用しているケースでゼプリオンを使用する必要があるのかどうか?
インヴェガに対するゼプリオンの優位性ってのはコンプライアンスの向上だと思うのですが、多剤を併用、内服しているのであればインヴェガ一つが増えたってそこまでの問題はないのでは………と考えてしまうのですがどうなんでしょう?


とにかく、今後、どのような結果が出るか注意深く見守りたいですね。
一部報道では過剰反応気味になっていますが、医療関係者として冷静に見守りたいと思います。