薬剤師の脳みそ

調剤(保険)薬局の薬剤師が日々の仕事の中で得た知識や新薬についての勉強、問題を解決する際に脳内で考えていることについてまとめるblogです。できるだけ実用的に、わかりやすく、実際の仕事に活用できるような情報になるよう心がけていきます。基本的に薬剤師または医療従事者の方を対象としています。

タウリン散 98%「大正」に「ミトコンドリア病(MELAS)の発作抑制」の適応追加

勉強法で悩んでいる薬剤師の方へ

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1つはすぐに活用できる知識。現在の業務の中で必要とされる知識です。身に付けたらすぐに活用することができるので仕事に活かすことができますし、忘れることもありません。

もう1つはすぐには活用できない知識です。身に付けてもすぐに使う知識ではないのないので、だんだんと記憶から薄れてしまいます。ただし、この知識こそが薬剤師としての基礎的な力になります。

普段の業務で使用しない知識を身に付けるのは記憶力を必要としますし、モチベーションを維持するのも大変です。そのため、習慣的に新しい知識を取り入れることを生活の一部にすることが大切になります。薄い知識でも重ねていくことで自然と少しずつ、自分の力として身についていきます。
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(ここからが記事本文になります)

平成31年2月21日、効能・効果の追加などの承認が行われました。
その中で、特に注目を集めているのが、指定難病であるミトコンドリア病MELASに対する初の治療薬となるタウリン散98 %「大正」です。
リポビタンDのCM(タウリン1,00mg配合!)で日本人なら一度は耳にしたことのあるタウリンが難病に効果を発揮するということで、今回の適応追加が広く話題になっていますね。
(タウリン散98%「大正」は1987年12月から医療用医薬品として販売されています。)
  
  

  
  

ミトコンドリア病とは?

ミトコンドリアは人間をはじめとする真核生物の細胞に含まれる細胞内小器官の一つで、エネルギー産生をはじめとする様々な役割と持っています。
このミトコンドリアの機能に異常が生じることによって引き起こされる疾患の総称をミトコンドリア病と呼びます。
ミトコンドリア病はミトコンドリアDNA(ミトコンドリアは独自のDNAを持つ)の異常やその他の遺伝的要因によって引き起こされるものがほとんどです。
どの組織のミトコンドリアに異常が生じるかによって症状や疾患名も異なります。
特定疾患に指定されており、国内患者数はおよそ1,000人*1と言われていますが、糖尿病、パーキンソン病、アルツハイマー病、難聴などと診断されている患者の一部はミトコンドリア病が原因と考えられており、潜在的な患者数はもっと多いのではないかと言われています。
  
ミトコンドリア病全体の特徴として、脳、心臓、骨格筋などエネルギー消費が激しい器官に症状が現れます。
これはエネルギー産生を担うミトコンドリアの異常だから当然かと思います。
また、ミトコンドリアによる好気的エネルギー産生ができなくなる分、嫌気的エネルギー産生が過剰に働くことになり、その結果、乳酸やピルビン酸の蓄積が起こることもあります。
  

ミトコンドリア病の病型

ミトコンドリア病は欠損するミトコンドリアの機能により病態が異なり、大きく3つに分類されています。
  

MELAS*2

メラスはミトコンドリア病で最も頻度が高い病型で、患者数は約300人と推定されています。
タウリン散 98%「大正」が適応を取得したのはこのMELAS(メラス)における脳卒中様発作の抑制です。
日本語に訳すと「ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様症候群」となります。

  • 発症年齢:2〜15歳
  • 症状:脳卒中様発作(SE*3)(頭痛や吐き気、皮質盲*4、痙攣、片麻痺などで多くは一過性)など

母系遺伝による影響を受け、患者の80%は15歳までに発症します。
病理学的に小動脈の異常が見られ、脳CT/MRIでは後頭部に多巣性脳梗塞のような所見が認められます。
発作を繰り返すことで、てんかん、半盲、筋力低下、知力障害等が進行していくこともあります。
  

脳卒中様発作(SE)
MELASの特徴的な症状である脳卒中様発作。
脳卒中ではなく脳卒中様発作。
具体的にどの様な症状なのか?なかなか資料が見つからなかったのですが、下記が参考になりました。
臨床的特徴
SEは拍動性頭痛で始まることが多く、視覚障害、痙攣発作、意識障害、失語、精神症状が出現する。頭痛は悪心、嘔吐をともない、日常労作で増悪し、視覚前兆をともない、sumatriptan皮下注射が奏効することもある。症候学的には片頭痛重積発作に類似し頭痛は連日持続するが、経過中痙攣発作や意識障害が出現することが多い。脳梗塞のように構音障害や片麻痺が突発することもない。脳塞栓症再開通時の不完全梗塞でまれに痙攣発作を生じることはあるが、SE急性期にはてんかん発作を高率(75%)にみとめるのが最大の特徴であり、経過中に複雑部分発作重積にいたることも少なくない。したがって、急性期には大脳皮質神経細胞の興奮性が亢進していると推測される。
引用元:MELASの脳卒中様発作の病態と治療(臨床神経,48:1006-1009,2008)
  

MERRF*5

MERRF(マーフ)は日本語に訳すと「赤色ぼろ線維・ミオクローヌスてんかん症候群」ですが、福原病とも呼ばれます。

  • 発症年齢:小児〜70歳
  • 症状:ミオクローヌス、てんかん、小脳失調(めまい、歩行時のふらつき、発語障害など)など

経過とともに、痙攣、筋力低下、知的退行が進行していきます。
また、4割程度に心筋症の合併が見られます。
  

CPEO*6

日本語に訳すと「慢性進行性外眼筋麻痺症候群」です。

  • 発症年齢:小児〜40歳(主に10〜20歳)
  • 症状:眼瞼下垂、眼球運動制限、四肢の筋力低下など

  
  

タウリン散98%「大正」への適応追加

タウリン散98%「大正」における効能・効果追加等の承認取得に関するお知らせ【大正製薬】
タウリン散98%「大正」 添付文書
  • 医薬品名(薬価):
    • タウリン散98%「大正」(8.50円/g)
  • 有効成分:タウリン
  • 申請者:大正製薬
  • 追加された効能・効果:ミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作(MELAS)症候群における脳卒中様発作の抑制
  • 追加された用法・用量:タウリンとして、下表の1回量を1日3回食後に経口投与する
      
    体重 1回量
    15kg未満 1g
    15kg以上25kg未満 2g
    25kg以上40kg未満 3g
    40kg以上 4g
  

従来の適応と用法・用量

これまでの適応は、

  • 高ビリルビン血症(閉塞性黄疸を除く)における肝機能の改善
  • うっ血性心不全

の2種類でした。
その場合の用法・用量は以下の通りです。

タウリンとして、成人1回1gを1日3回食後に経口投与する。なお、うっ血性心不全に用いる場合、本剤は強心利尿剤で十分な効果が認められないときに、それと併用すること。
引用元:タウリン散98%「大正」 添付文書
  

実際の処方は?

タウリン散98%「大正」1.02g(1包)にタウリン1gが含まれるので、これまでの適応だと、
 タウリン散98%「大正」 3g 毎食後 14日分
のように処方されていたものが、MELASに対して使用する場合、
 タウリン散98%「大正」 12g 毎食後 14日分
となるんですね。
知らなかったら間違いかと思いますね。
ちなみに、15kg未満の場合はこれまでの用法・用量と見た目では区別できませんね。
さすがに年齢で気付くかと思いますが・・・。
  
  

タウリンがミトコンドリア病(MELAS)に効果を発揮する理由

さて、このニュースを見て、多くの人が気になったのは何でタウリンがミトコンドリア病(MELAS)の治療薬となるのか?
ってことですよね。
それを理解するために、タウリンの働きとMELASについてもう少し掘り下げてみます。
  

タウリンの働き

タウリンはヒトを含む生物の体内で様々な役割を持つ重要な物質です。
人間の体内ではシステインから生合成されますが、食事からは軟体動物の中でも特に頭足類(タコ、イカ)、牡蠣に多く含まれています。
その作用は多岐に渡り、ホメオスタシスに貢献していると言われてますが、以下のような作用が挙げられます。

  • 肝細胞再生促進
  • 胆汁酸分泌促進(コレステロール値低下)
  • 細胞膜安定化作用
  • 細胞内カルシウム調節
  • 視細胞の維持
  • 筋収縮
  • 浸透圧の調節

ただ、これだけではミトコンドリア病との関係はわかりません。
  

ミトコンドリアとタウリンとMELAS

ミトコンドリア病の研究が行われる中で、ミトコンドリアのtRNAはタウリンによる修飾を受けるということが明らかになりました。
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ミトコンドリアのtRNAはタウリンによる修飾を受ける
  
MELASはミトコンドリアDNAのたった一ヶ所の変異により発症することがわかっています。
その変異により、ミトコンドリアtRNAのタウリン修飾部位が影響を受け、タウリン修飾を受けることができなくなってしまいます。
tRNAはタウリンによる修飾を受けないと一部のコドンを解読できません。
その結果、タンパク質合成が影響を受け、呼吸鎖酵素複合体の機能異常を起こしてしまいます。
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MELASではtRNAへのタウリン修飾に問題が起きている
これがMELASの原因です。
  

MELAS患者へのタウリン投与

MELAS患者に大量のタウリン投与を行うことで、tRNAへのタウリン修飾を補うというのが今回承認された治療方法です。
添付文書には以下のような記載があります。
臨床成績
〈MELAS症候群における脳卒中様発作の抑制〉
MELAS症候群患者(10例)を対象に、本剤12g/日(体重40kg以上)、9g/日(体重25kg以上40kg未満)、6g/日(体重15kg以上25kg未満)又は3g/日(体重15kg未満)を52週間投与し、主要評価項目である投与開始9週以降52週までの44週間での脳卒中様発作回数が0回であった症例の割合は60%(6/10例)であった。また、変異型別の脳卒中様発作回数が0回であった症例の割合はA3243Gが55.6%(5/9例)、T3271Cが100%(1/1例)であった。
対象とされた変異型は、ミトコンドリアtRNALeu(UUR)遺伝子領域のA3243G、T3271C、G3244A、T3258C及びT3291C変異型であり、臨床試験に組み入れられた変異型はA3243G(9例)及びT3271C(1例)であった。
引用元:タウリン散98%「大正」 添付文書
これだけではその効果がわかりにくいですが、別の試験では2例の患者ですが9年異常発作を抑制したケースもあるようです。
  
  

MELASに対するタウリン投与の注意点

添付文書には以下のような記載があります。
効能又は効果に関連する使用上の注意
MELAS症候群における脳卒中様発作の抑制においては、臨床試験に組み入れられた患者のミトコンドリア遺伝子の変異型について、【臨床成績】の項の内容を熟知し、本剤の有効性及び安全性を十分に理解した上で、適応患者の選択を行うこと。
引用元:タウリン散98%「大正」 添付文書
副作用
副作用等発現状況の概要
〈MELAS症候群における脳卒中様発作の抑制〉
臨床試験において認められた副作用は、10例中6例13件であった。その主なものは、口内炎2件であった。[承認時]
  1. 精神神経系(20%未満):不眠症
  2. 消化器(20%以上):口内炎
  3. 消化器(20%未満):便秘、下痢、胃食道逆流性疾患、裂孔ヘルニア、胃腸炎、食欲減退
  4. その他(20%未満):頻尿、四肢痛、γ-グルタミルトランスフェラーゼ増加、血中クレアチンホスホキナーゼ増加
引用元:タウリン散98%「大正」 添付文書
小児等への投与
〈MELAS症候群における脳卒中様発作の抑制〉
新生児、乳児、幼児及び13歳以下の小児における有効性及び安全性は確立していない(使用経験がない)。一般に新生児及び2歳未満の乳児においては体表面積あたりのGFRが低いことから排泄されずに血中濃度が上昇するおそれがある。
引用元:タウリン散98%「大正」 添付文書
消化器系の副作用が多いこと、13歳以下の場合に注意が必要なことを覚えておきたいですね。
  
  

参考資料

*1:平成24年度医療受給者証保持者数は1,087人

*2:Mitochondrial myopathy, Encephalopathy, Lactic acidosis And Stroke-like episodes

*3:Stroke-like Episodes

*4:脳の損傷によって目に見えているものを認識できなくなる状態

*5:Myoclonus Epilepsy associated with Ragged-Red Fibers

*6:Chronic Progressive External Ophthalmoplegia

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