薬剤師の脳みそ

調剤(保険)薬局の薬剤師が日々の仕事の中で得た知識や新薬についての勉強、問題を解決する際に脳内で考えていることについてまとめるblogです。できるだけ実用的に、わかりやすく、実際の仕事に活用できるような情報になるよう心がけていきます。基本的に薬剤師または医療従事者の方を対象としています。

このブログは薬局で働く薬剤師を中心とした医療従事者の方を対象に作成しています。
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国内初の飲酒量低減薬 セリンクロ錠の承認了承〜平成30年11月9日 薬食審医薬品第一部会

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(ここからが記事本文になります)

平成30年11月9日、厚生労働省の薬食審医薬品第一部会が開催されました。
今回審議されたのはは国内初の飲酒量の低減を目的とする薬剤セリンクロ錠とプレセデックス静注液の小児適応の追加の2つです。
  
  

  
  

審議品目

今回審議が行われたのはセリンクロ錠の製造承認についてとプレセデックス静注液の小児適応追加についてです。
現段階では正式な承認は行われていないため、国内未承認となります。
2019年11月30日の段階では承認が了承されただけで正式には未承認でしたが、セリンクロ錠は2019年1月8日に製造承認を取得、プレセデックス静注液は2018年11月29日に小児適応の追加承認を取得しています。
  

セリンクロ錠

詳しくは別記事にまとめています。

  
2019年1月8日に正式に承認されています。
国内初のアルコール依存症における飲酒量低減薬「セリンクロ錠10mg」が製造販売承認を取得
また、2019年2月26日付で薬価基準収載、3月5日から発売されています。
新発売(薬価基準収載)のご案内

  • 医薬品名:セリンクロ錠10mg
  • 成分名:ナルメフェン塩酸塩水和物
  • 申請者:大塚製薬
  • 効能・効果:アルコール依存症患者における飲酒量の低減
  • 用法・用量:通常、成人にはナルメフェン塩酸塩として1回10mgを飲酒の1~2時間前に経口投与する。ただし、1日1回までとする。なお、症状により適宜増量することができるが、1日量は20mgを超えないこと。

  
デンマークのルンドベック社が創製し、42の国で使用されている薬剤です。
日本では大塚製薬とルンドベック社が共同開発を行いました。
  

飲酒量の低減を目的とする初の薬剤

アルコール依存症に対して使用される薬剤には、レグテクト錠(成分名:アカンプロサートカルシウム)があります。
アルコール依存症においては、NMDA型グルタミン酸受容体が亢進し、GABAA受容体が抑制されています。
アカンプロサートはNMDA型グルタミン酸受容体を阻害すると同時に、GABAA受容体を刺激することにより、脳内の興奮と抑制のバランスを調整し、アルコール依存症患者が断酒を継続しやすくなる断酒補助薬と言われています。
  
これに対し、ナルメフェンは断酒ではなく、断酒を目的とする中でのステップである飲酒量低減を行うための薬剤です。
飲酒量の低減を目的とした効能・効果をもつ薬剤の承認は日本では初めてになります。
  

アルコール依存症とナルメフェンの作用機序

ナルメフェンは選択的オピオイド受容体調節薬として作用することで、飲酒欲求を抑制し、飲酒量低減を行います。
  
飲酒を行うとμオピオイド受容体とδオピオイド受容体が刺激されます。
その結果、ドパミンが放出され、多幸感を感じます。(報酬系)
同時にκオピオイド受容体も刺激されます。
すると反対に、ドパミンの放出に抑制がかかり嫌悪感を感じます。
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オピオイド受容体とドパミンの関係
飲酒ではこの2つの作用が同時に存在し、通常の飲酒量ではそのバランスが取れた状態になっています。
ですが、過度な飲酒が持続すると、μオピオイド受容体とδオピオイド受容体のダウンレギュレーションが起こってしまうため、κオピオイド受容体が優位になり、飲酒による幸福感が持続せず、普段から嫌悪感の方が強く出てしまいます。
そのため、常にアルコールの摂取を求めてしまうのがアルコール依存症です。
  
ナルメフェンはμオピオイド受容体とδオピオイド受容体に対しては拮抗薬として作用し、κオピオイド受容体に対しては部分的作動薬(パーシャルアゴニスト)として作用します。
その結果、アルコールを摂取しても求めるほどの一時的な幸福感を得ることができません。
さらに、嫌悪感についても抑制がかかり、さらに飲酒を求めるようなことにはなりません。
このような作用の結果、ナルメフェンは飲酒量を低減させることができると考えられます。
  

承認条件

セリンクロの承認に対しては、「本剤の安全性及び有効性を十分に理解し、アルコール依存症治療を適切に実施することができる医師によってのみ処方されるよう、適切な措置を講じること」という条件がつけられています。
これは、使用対象患者が広がる可能性があるためにつけられた措置で、使用する際にはメーカーや学会主催する講習会に参加する必要があるようです。
  
すでに発売されましたが、この部分の解釈について国と大塚製薬で協議が続いているようですね。
大塚製薬が提示するものになるか、国が求めるもの(重度アルコール依存症入院医療管理加算の算定にあたり医師等に求められる研修に準じたもの)になるかで使用できる施設の範囲が大きく変わります。
  
  

プレセデックス静注液に小児用量追加

2018年11月29日に正式に承認されています。
α2作動性鎮静剤 プレセデックス®静注液「ファイザー」小児適応の追加承認取得
  • 医薬品名:
    • プレセデックス静注液200 μg「ファイザー」
    • プレセデックス静注液200 μg/50mLシリンジ「ファイザー」
    • プレセデックス静注液200 μg「マルイシ」
    • プレセデックス静注液200 μg/50mLシリンジ「マルイシ」
  • 有効成分:デクスメデトミジン塩酸塩
  • 申請者:ファイザー/丸石製薬
  • 追加された効能・効果:「集中治療における人工呼吸中及び離脱後の鎮静」において以下の小児の用法・用量を追加
  • 追加された用法・用量:通常、6歳以上の小児には、デクスメデトミジンを0.2µg/kg/時の投与速度で静脈内へ持続注入し、患者の状態に合わせて、至適鎮静レベルが得られる様、0.2~1.0µg /kg/時の範囲で持続注入する。通常、修正在胎(在胎週数+出生後週数)45週以上6歳未満の小児には、デクスメデトミジンを0.2µg/kg/時の投与速度で静脈内へ持続注入し、患者の状態に合わせて、至適鎮静レベルが得られる様、0.2~1.4µg/kg/時の範囲で持続注入する。
  

要望に応える形での適応追加

小児適応についての要望が多かったため、小児適応の開発が進められたようです。
海外では小児適応が承認されている国はありません。
  
  

報告品目

報告品目とは、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査段階で薬食審の部会では審議は不要、報告のみで問題ないと判断されたものです。
既に承認されている医薬品と同じ薬理作用に基づく効能効果の追加や剤形追加、規格追加などが対象となることが多いです。
現段階では正式な承認は行われていないため、国内未承認となります。
  

プラルエント皮下注の適応拡大(承認済み)

2018年11月21日に正式に承認されました。
高コレステロール血症治療剤「プラルエント®」HMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)による治療が適さない患者を対象とした一部変更承認取得
  • 医薬品名:
    • プラルエント皮下注75mgペン
    • プラルエント皮下注150mgペン
  • 有効成分:アリロクマブ(遺伝子組換え)
  • 申請者:サノフィ
  • 追加される効能・効果:「家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症 心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分な場合に限る」に「HMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない患者」を加える
一変承認前の効能又は効果
家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症
ただし、心血管イベントの発現リスクが高く、HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分な場合に限る。
  
一変承認後の効能又は効果(下線部が追加)
家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症
ただし、以下のいずれも満たす場合に限る。

  • 心血管イベントの発現リスクが高い
  • HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分、又はHMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない

引用元:プラルエント皮下注 使用上の注意改訂のお知らせ

一変承認前の用法及び用量
通常、成人にはアリロクマブ(遺伝子組換え)として75mgを2週に1回皮下投与する。効果不十分な場合には1回150mgに増量できる。
  
一変承認後の用法及び用量
  • HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分な場合
    通常、成人にはアリロクマブ(遺伝子組換え)として75mgを2週に1回皮下投与する。効果不十分な場合には150mgを2週に1回投与に増量できる。
  • HMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない場合
    通常、成人にはアリロクマブ(遺伝子組換え)として150mgを4週に1回皮下投与する。効果不十分な場合には150mgを2週に1回投与に増量できる。
引用元:プラルエント皮下注 使用上の注意改訂のお知らせ
  

PCSK9阻害薬について

復習です。
悪玉コレステロールと言われるLDLはLDL受容体により、血中から除去されます。
PCSK9*1(前駆蛋白変換酵素サブチリシン/ケキシン9)が存在するとLDL受容体を分解してしまうため、血中のLDLの低下が妨げられてしまいます。
PCSK9阻害薬はLDL受容体の分解を防具ことでLDLを低下させる薬剤です。
  

PCSK9阻害薬の単独使用が可能に

現在、日本で使用できるPCSK9阻害薬はプラルエント皮下注(アリロクマブ)とレパーサ皮下注(エボロクマブ)の二種類ですが、いずれもHMG-CoA還元酵素阻害剤と併用しないと使用できませんでした。
今回の内容が正式に承認されれば承認により、HMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない場合については、プラルエント皮下注(アリロクマブ)を単独で使用することが可能になりました。
用法及び用量に関連する使用上の注意
1.HMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない場合を除き、HMG-CoA還元酵素阻害剤と併用すること。
  
  

そのほか

1品目の公知申請が了承されています。
公知申請とは、日本では承認されていない効能・効果について海外で承認されている場合、海外での実績やデータを元に、有効性や安全性が医学的に明らか(公知)であるとして、試験の一部を省略して申請を行える制度です。
公知申請が行われたものについては、部会で承認が了承された時点で医療保険の適応となります。
承認はまだなので、添付文書上は適応外使用でも医療保険の対象となる状態です。
2019年5月22日付で正式に承認されました。
  

公知申請:ブロプレスの小児適応

公知申請を経て、2019年5月22日には正式に承認されています。
「ブロプレス®錠2・4・8・12」小児への用法・用量追加承認の取得に関するお知らせ
  
新たに薬事・食品衛生審議会において公知申請に関する事前評価を受けた医薬品の適応外使用について(薬生薬審発1109第1号 薬生安発1109第1号 平成30年11月9日)
  • 医薬品名:
    • ブロプレス錠2
    • ブロプレス錠4
    • ブロプレス錠8
    • ブロプレス錠12
  • 成分名:カンデサルタンシレキセチル
  • 追記された用法・用量:通常、1歳以上6歳未満の小児には1日1回カンデサルタンシレキセチルとして0.05〜0.3mg/kgを経口投与する。通常、6歳以上の小児には1日1回カンデサルタン シレキセチルとして2〜8mgを経口投与し、必要に応じ12mgまで増量する。ただし、腎障害を伴う場合には、低用量から投与を開始し、必要に応じて8mgまで増量する。

*1:Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin type 9

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