薬剤師の脳みそ

調剤(保険)薬局の薬剤師が日々の仕事の中で得た知識や新薬についての勉強、問題を解決する際に脳内で考えていることについてまとめるblogです。できるだけ実用的に、わかりやすく、実際の仕事に活用できるような情報になるよう心がけていきます。基本的に薬剤師または医療従事者の方を対象としています。

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バイアスピリン錠100mgとバファリンの配合錠A81の粉砕調剤について考えてみる

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(ここからが記事本文になります)

今更ながらバイアスピリンとバファリン配合錠の粉砕について考えてみました。
自分も含めて多くの環境で出会う処方で、個々に対応し、大きな問題も生じてはいないかと思います。
ただ、実際のところどうするのが一番いいのか?
もし、明確な結論がないのであれば一度考えてみませんか?
薬剤師であれば調剤について、自分なりの根拠を持っておくのは大切です。
自分もその時々で考えが変わりそうな気もするので、現時点で考えたことをまとめておこうと思います。
だらだらと書いていきます(笑)
  
  
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バイアスピリンやバファリンの粉砕指示

嚥下困難の患者さんに対するバイアスピリン錠100mgやバファリン配合錠A81の処方・・・。
脳梗塞の再発予防にも使用される薬なので、決して珍しい処方ではないかと思います。
それほど大きくない錠剤なので「それくらいなら飲めるよ」って方もいるとは思いますが、どうしても飲めないというケースはあります。
認知症の方で服薬拒否があり、介護者が自己判断で粉砕を行なって飲ませていたなんてケースも耳にします。
  

アスピリン末への変更は?

薬局としては可能であれば粉砕調剤は避けたいところではあるのですが、散剤であるアスピリン原末等には低用量での抗血小板作用による投与の適応がありません。
(ただ、切られたと言う話も聞いたことはないですが。。。)
  
保険請求上、散剤のアスピリンを使用することができないのであれば、バイアスピリン錠100mgやバファリン配合錠A81mgを粉砕する必要が出てくるわけです。
でも、バイアスピリンは腸溶錠だよな。。。バファリン配合錠A81は吸湿性高いはず。。。
  
  

バイアスピリン錠は腸溶錠なので粉砕不可

みなさんご存知かとは思いますが、バイアスピリン錠は腸溶錠なので粉砕してしまうとその特性が失われてしまいます。
何故、腸溶性のコーティングを施しているのか?
その理由は大きく分けて2つです。

  • 胃粘膜の保護
  • 吸湿による分解を防ぐ

アスピリンの特性による不具合を回避するために腸溶性のコーティングで覆われています。
  
  

アスピリンの特性

アスピリンには様々な効果や性質を持っていますが、低用量アスピリン(LDA:Low Dose Aspirin)製剤は抗血小板作用を主たる目的として使用されます。
作用の性質上、長期にわたって服用を継続していくことになるのですが、そこで問題になるのが上にもあげた2つの不都合です。
それぞれについてまとめていきます。
  

消化管粘膜障害

アスピリンはCOX(シクロオキシゲナーゼ)を阻害することで解熱・消炎・鎮痛作用や抗血小板作用を発揮します。
ですが、炎症細胞のみで産生が高まっているCOX-2だけでなく、消化管粘膜等で恒常的に働いているCOX-1の働きも阻害してしまいます。
胃粘膜でCOX-1の働きを阻害した結果、胃粘膜の産生に関与しているPGの合成も抑制されてしまい、消化管粘膜障害を起こしてしまいます。
ちなみに、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)の消化管粘膜障害は用量依存的と言われていますが、アスピリンの場合は用量による差がないことが知られています。
解熱鎮痛作用を期待する用量でも、抗血小板作用を期待する低用量でも消化管粘膜障害の発現頻度には差がないと言われています。*1
鎮痛作用を期待して使用する用量でも抗血小板作用を期待して使用する低用量でも胃粘膜障害の発現頻度は同じということになります。
  
また、アスピリンの結晶が胃粘膜に付着して局所刺激を起こすことや、高濃度に溶解したアスピリンが強酸性の胃液中に存在することも胃粘膜障害の原因と考えられています。*2
  

各LDA製剤の工夫

LDA製剤は長期間にわたって服用する薬剤です。
その服用期間が長くなればなるほど、消化器障害が発生するリスクは高まります。
  
腸溶性のコーティング
バイアスピリンは腸溶錠とすることで胃粘膜から直接アスピリンが吸収されることを防ぎ、胃粘膜障害を起こりにくくしています。
クロピドグレルとLDA(低用量アスピリン*3)の配合剤であるコンプラビン配合錠は外殻にクロピドグレル、内殻に腸溶性のコーティングを施した上でアスピリンが入っています。
ランソプラゾールおLDAの配合剤であるタケルダ配合錠も同様の構造です。
  
ダイアルミネートの配合剤
同じくLDA製剤であるバファリン配合錠A81ではダイアルミネート(炭酸マグネシウムとジヒドロキシアルミニウム アミノアセテートを2:1の比率で配合)が配合された製剤です。ダイアルミネートが緩衝剤として働く結果、胃内の酸性度を低下、アスピリンの胃内での結晶化を防いでいます。*4
  
  

アスピリンと吸湿性

アスピリンは湿気により分解してしまう性質を持っています。
空気中の水分と触れることで加水分解を起こし、酢酸とサリチル酸に分解されます。
この反応は非常に早いようで、アスピリン原末の結晶を乳鉢ですり潰していると酢酸臭がしてきますね。
(すり潰す前から分解しているのかもしれませんけど)
長期間の服用が必要なため、保管方法は簡便であることが望ましいです。
  

LDA製剤の裸錠での安定性

それぞれのインタビューフォームには粉砕後のデータではありませんが、シートから出した状態での安定性試験の結果が記載されています。
  
バイアスピリン錠100mg インタビューフォーム
(30°C・80%RH・褐色ガラス瓶解放、6ヶ月後)

  • サリチル酸が0.9%増加(規格範囲内)

  
バファリン配合錠A81 インタビューフォーム
(25°C・75%RH・シャーレ解放、1ヶ月)

  • 1週間後に外観変化(濃い橙色の斑点)
  • サリチル酸1.4%増加(規格範囲内)
  • アスピリン含量2.2%低下(規格範囲内)

  
バファリン(81)はまだら模様のように変色し、見た目に目立つので結構気になってしまいますが、意外と含量への影響は少ないんですね。
  
  

粉砕することでどのような問題が起こるのか?

バイアスピリン錠を粉砕する=腸溶性が失われてしまう
つまり、アスピリンを服用するのと同じことです。
では、それがどの程度問題になるのか?ということですよね。
この問題が許容できる範囲であれば粉砕は選択可能になるということです。
  

胃腸障害のリスクは?

バイアスピリンを粉砕すると腸溶コーティングがなくなるため胃粘膜に対する直接刺激が生じます。
  
腸溶性アスピリン、緩衝剤入りのアスピリン、プレーンのアスピリン、プラセボを3ヶ月間服用した場合の消化管粘膜障害を比較した試験があります。
その結果、十二指腸粘膜潰瘍についてはいずれも差はありませんでした。
ですが、胃粘膜障害については、腸溶性アスピリン、プラセボの2つの方が緩衝剤入りのアスピリン・プレーンのアスピリンと比較して有意に少ないという結果となっています。*5
バイアスピリン錠は腸溶性を持たせることにより胃粘膜障害を防ぐ効果を持っているのですが、同時に、アスピリン原末の胃粘膜障害はバファリン配合錠A81と有意差がないということもわかります。
バイアスピリンを粉砕したものはアスピリン原末と同等と考えることができると思うので、バイアスピリンを粉砕した場合の胃粘膜障害のリスクはバファリン配合錠A81と同程度ということです。
  
以上より、バイアスピリンを粉砕することによる胃粘膜障害のリスクについては許容範囲ではないかと個人的には思います。
  

保管上の問題は?

バイアスピリンを粉砕すると腸溶性のコーティングが失われるだけでなく、アスピリンが直接空気に接する面積が増えてしまいます。
そのため、アスピリンが空気中の水分に触れ、加水分解を起こしやすくなってしまいます。
  
バファリン配合錠A81は包装(アルミSP包装)から、粉砕はおろか一包化包装にも不適であることが見て取れます。
  
上にも少し書きましたが、結晶化したアスピリン末はすりつぶす段階から酢酸臭を感じ、分解が進んでいることが想像できます。
ということで、バイアスピリンやバファリン配合錠A81を粉砕した状態というのは患者宅での保管には適していないということが予想されます。
  
ですが、広島佐伯薬剤師会が運営する薬剤師ノートには以下のような記録があります。
バイアスピリン錠の粉砕について-薬剤師ノート
  

25℃湿度75%の条件で30日間は安定。効能効果は特に変わりない。
吸収時間が少し早まるだけ。一番の問題は胃への直接刺激だけとのこと
バイエル薬

あれ?意外と大丈夫なのかな?
  
また、以下のような記事もあります。
第46回日本薬剤師会学術大会リポート アスピリン錠剤の粉砕、種類により安定性に差異-日経DIオンライン
赤堀氏らは、アスピリンの錠剤として、フィルムコートされた腸溶錠であるバイアスピリン錠100mgと、アスピリンとダイアルミネートの二層錠であるバファリン配合錠A81を選定。乳鉢と乳棒を用いてそれぞれを別個に粉砕して自動分包機で分包した。また、比較のためにアスピリン末100mgをそのまま分包した。
室温で28日間保管した後、高速液体クロマトグラフ法(委託先:岐阜県公衆衛生検査センター)で定量分析を行うために、乳糖で賦形して再分包。アスピリンの含有比率を合わせるため、バイアスピリンとアスピリン末は全量が5g、バファリンは4gになるように賦形して、アスピリンの含量を測定した。すると、バファリンにおけるアスピリン含量は86%、アスピリン末では83%であったのに対し、バイアスピリンでは56%と他2剤より大幅な低下を認めた。
調整方法にもよるのでじょうが、バイアスピリンは大幅に低下していますが、意外とバファリン配合錠A81は粉砕後も安定して保存が可能になっていますね・・・?
  
試験により結果が異なるということは、細かな調整方法や保管条件で加水分解の進み方が変わってくるのではないかと想像できますが、可能な限り短期間、乾燥剤等を用いた保管方法を指導することで許容範囲とすることができるのではないかと思います。
  

粉砕することによる吸収速度の上昇

以前、後輩からバイアスピリン錠の粉砕について、添付文書上の記述について質問を受けました。

用法及び用量に関連する使用上の注意
1.急性心筋梗塞ならびに脳梗塞急性期の初期治療において、抗血小板作用の発現を急ぐ場合には、初回投与時には本剤をすりつぶしたり、かみ砕いて服用すること。

つまり、粉砕して腸溶性をなくすことで吸収速度が上がるということです。
吸収速度が上がることで、バイアスピリン錠の効果や副作用について影響が出るようなことはないのですか?
というのが後輩の質問です。
先に結論を書いてしまうと・・・
基本的には問題ないと思います。
  

LDAの吸収速度について

バイアスピリンは腸溶性を持たせることにより胃内では溶出せず吸収されません。
その反面、通常のアスピリン製剤と比較すると吸収が遅くなっています。
ですがバイアスピリンは継続して定期的に使用される薬です。
初回投与以外でバイアスピリンの血中濃度を急激に高める必要はないので、腸溶性を持たせることで吸収速度が遅くなっていても問題ありません。
  
じゃあ、逆に吸収が早くなるとどうでしょうか。
ここで思い出して欲しいのがバファリン配合錠A81です。
ジヒドロキシアルミニウム アミノアセテートと炭酸マグネシウムが配合されているため消化管のpHは上昇します。
pHが上昇した結果、アスピリンの吸収速度は上がります。
吸収速度が高まるバファリン配合錠A81が同じ効能・効果で使用されていることからも問題ないことは明らかですね。
  
血中濃度が一定じゃなくてもいいんですか?とも聞かれたのですが、そもそも、アスピリンの抗血小板作用は非可逆的にCOX-1を阻害することによります。
アスピリンによって失活した血小板のCOX-1は活性を取り戻すことなく、凝固能は新たな血小板が生成されて初めて回復します。
つまり、血中濃度が低下しても効果は続きます。
このことは手術時等の休薬期間が一週間とされていることからもわかります。
以上より常に血中濃度を一定に保つ必要はないことがわかります。
また、上にも書きましたが、消化管粘膜障害についても用量依存的ではないことから、吸収速度が上がるくらいの変化では問題はないと考えられます。
  
  

まとめ

簡単にまとめてみます。
結論だけ言うと、

  • バイアスピリンの粉砕:腸溶コーティング剥がれるけど問題なさそう(保険的には不明)
  • バファリン配合錠A81の粉砕:問題なさそう
  • アスピリン末への切り替え:適応なし(薬価安いし切られることは少ない?)

と言った具合でしょうか?
  

バイアスピリンの粉砕は可能

バイアスピリン錠は粉砕することで、

  • 胃粘膜障害リスクの増加
  • 長期保管の安定性減少
  • 吸収速度の増加

といった問題が生じます。
つまり、バイアスピリンとしての性質は失われてしまうということです。
ですが、いずれも他のアスピリン製剤と同等のものになるというだけであるため、その性質を理解していれば十分許容範囲と言えるのではないかと思われます。
  
ただし、胃粘膜障害には注意が必要なので、

  • 食後服用
  • PPI等の併用
  • 口腔内・食道等に残存しないよう多めの水で服用

等の注意は必要だと思います。
LDA服用中の注意と同じといえば同じですが・・・。
  
後は保管方法です。
湿度等の影響を受けないよう、乾燥剤とともに保管すべきです。
  

バファリン配合錠A81の方が粉砕には向いている?

上にあげた安定性のデータを見るとバファリン配合錠A81の方が粉砕後も安定していることがわかります。
バファリン配合錠A81は緩衝剤であるダイアルミネートを配合することで胃粘膜障害を抑えている製剤です。
この場合、粉砕後も性質は大きく変わらないことが想像できます。
  
と言うことは、より製品に近い性質を持ち、粉砕後も安定して保管できるバファリン配合錠A81の方が粉砕に向いていると言えるのかもしれませんね。
  

粉砕調剤について

嚥下困難とは言っても介護者の技術によっては上手に薬を飲めれることもあり、本当に粉砕調剤が必要かどうかは追求してみないとわからないとことがあります。
個人的には粉砕調剤は保管上の問題や服用量のロスの問題があるため避けたいところではあります。
粉砕調剤が必要となった段階で服用している薬の見直しを行い、最低限の服薬にすべきではないかと思います。
  
ですが、バイアスピリンやバファリン配合錠A81はその性質から中止にするには難しい薬剤です。
そのため、粉砕するかどうかの選択に迫られる機会は少なくないと思います。
その際の対応はそれぞれの判断があるかと思います。
ですが、他薬局からの処方引き継ぎ等みていると、薬局や病院によって粉砕をしていたりしていなかったり、粉砕していなくても介護者が勝手に粉砕していたりと言ったケースをよく見かけます。
粉砕するかどうかの考えはそれぞれだとは思うのですが、粉砕しないのであればその理由を介護者にまでしっかりと伝えないといけませんよね。
  

最後に

バイアスピリンにしてもバファリン(81)にしても実際に粉砕調剤しているケースは珍しいものではなく、大きな問題なく継続しているのではないかと思います。
それでも根拠をしっかり持つと言うことは大事と思うので今回の記事をまとめてみました。
  
ちなみに、バイアスピリン錠のみを粉砕調剤した場合、嚥下困難者用製剤加算の算定はどうなんでしょうか?
基本的に粉砕不可の薬剤なので自分は算定してはいないのですがどうなんでしょう?
粉があると言っても適応が異なるので、その点は大丈夫かとは思うのですが・・・。
このあたりの解釈もそれぞれで異なりそうですね。

*1:Derry S, Loke YK : Risk of gastrointestinal haem-orrhage with long term use of aspirin : meta-analysis. BMJ 321 ; 1183―1187 : 2000

*2:バファリン配合錠A330 インタビューフォーム エーザイ株式会社

*3:L ow Dose Aspirin

*4:バファリン配合錠A330 インタビューフォーム エーザイ株式会社

*5:Petroski D. Endoscopic comparison of three aspirin preparations and placebo. Clinical Therapeutics 1993; 15: 314-320

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