2016年度調剤報酬改定についての議論が進む~薬局の進むべき道は?
平成27年12月4日、第317回中央社会保険医療協議会総会(中医協総会)が開催され、来年、平成28年4月1日に予定されている診療報酬改定、特に調剤報酬に関する内容が話し合われたようです。
大幅なマイナス改定となるのではないかと噂されている2016年度の調剤報酬改定。
今後の業務内容がどのように変化していくのかが少しずつ見えはじめました。
経営的な面で考えると、受け入れがたい改訂となりそうですが、一薬剤師としては国の考えを受け入れて答えていきたいと思っています。
まだまだ、あくまでも案の状態ですが、少ない情報をもとに、その視点でいろいろ想像を含めて考えてみたいと思います。
H28調剤報酬改定についての過去記事です。
なお、疑義解釈等が公開されて初めて考え方がわかるものもあるので、あくまで現時点での一人の薬剤師の解釈として捉えてもらえれば幸いです。
解釈に変更等があれば随時更新する予定です。
https://pharmacist.hatenablog.com/archive/category/%E8%A8%BA%E7%99%82%E5%A0%B1%E9%85%AC%E6%94%B9%E5%AE%9A-%E5%B9%B3%E6%88%9028%E5%B9%B4%E5%BA%A6%EF%BC%882016%E5%B9%B4%E5%BA%A6%EF%BC%89%E8%AA%BF%E5%89%A4%E5%A0%B1%E9%85%AC%E6%94%B9%E5%AE%9Apharmacist.hatenablog.com
今回の総会の資料へのリンクです。
www.mhlw.go.jp
薬局を取り巻く環境
高齢化が進む中、医療費の増加は、日本全体が抱える大きな問題です。
その中でも、調剤医療費の伸びが大きいことから、調剤部分をマイナス改定すべきという指摘を受けています。
また、それに加え、前回2014年の診療報酬改定からこれまでの間に、薬局は様々な指摘を受けてきました。
- 医薬分業によるコスト増に見合ったメリットを国民が感じることができていない
- 薬歴未記載問題
などが代表的です。
それとは逆に、残薬問題等で薬剤師が職能を発揮しているという明るい話題もありましたが、それらすべてを踏まえ、今回の薬局の改革という議論につながっているのだと思います。
今回の診療報酬改定の中で、調剤報酬がどのように変更されるか、そこから今後の薬局・薬剤師の姿が見えてくるのだと思います。
かかりつけ薬剤師・かかりつけ薬局を促すための改定
今回の改定における議論の中心といっても過言ではないのが、門前薬局の評価引き下げと、かかりつけ薬局・薬剤師の評価です。
薬局・薬剤師に対する評価・イメージの現状
ここ最近の議論の流れでは、
- 薬局:病院との位置関係=立地によって処方箋を獲得、収益を上げている
- 薬剤師:処方箋と薬を相手=対物業務により調剤技術料を獲得、収益を上げている
という部分が強いのではないかと指摘されています。
患者本位の医薬分業を実現するために、
- 薬局:病院や医療機関の前から患者の生活する地域に
- 薬剤師:対物業務から対人(患者)業務へ
ということが訴えられています。
これらについては、特に目新しい考えではなく、かかりつけ薬局・かかりつけ薬剤師としての理想、あるべき姿としてすでに知られていることだと思います。
ただ、これまで、何故実現していないかというと、
- 薬局:病院・医院の近くでないと処方せん獲得が困難
- 薬剤師:近隣病院・医院からの処方せんの調剤を行うので精一杯
という状況が多くみられているような気もします。
もちろん、そんなことはなく、病院・医院にとらわれない薬局で地域に根差した薬局として認められている薬局もありますし、数多くの処方せんを受け付けながら、一人ひとりの患者さんにきめ細かく対応している薬剤師もたくさんいます。
でも、大多数がそうではないと思われてしまっているのが悲しい現状ですね。
加えて、対物業務が低く見られているように感じるのにも疑問を感じます。
わかりやすい薬袋・薬情の作成や、調剤ミスがないように投薬を行うことは当たり前に見えるかもしれませんが、大変なことであることは薬剤師であればわかることですよね。
薬剤師会には、もっと、ここをアピールしてほしいとは思います。
中医協で提案された案
保険(調剤)薬局の収益の大部分を支えているのは調剤技術料です。
調剤基本料にしても調剤料にしても、処方せんを受け付ければ基本的に必ず算定することが可能です。
その結果、一人ひとりの患者さんに時間を割くよりも、数多くの処方せん調剤を行う方が高い収益を上げることができるという現状を打破すべく、案が出されています。
具体的には、
- 調剤基本料や調剤料による評価を引き下げ
- 服薬情報の一元的・継続的な管理の評価
- 24時間対応の評価
- 在宅訪問等の評価
といった方向で検討が行われているようです。
調剤基本料と調剤料の見直し
今回の改定について、最もショッキングな部分がここですね。
中医協でもやはりその方向で議論が進んでいるようです。
調剤基本料や調剤料はの評価は見直し、特に、大規模門前薬局の調剤基本料については、今後段階的に引下げの範囲を拡大していくようです。
要は、現行ルールで、「集中率70%以上で処方せん回数月4000回以上」、「集中率90%以上で処方せん回数月2500回以上」の薬局が調剤基本料の特例(41点から25点に調剤基本料引き下げ)の対象となっていましたが、この範囲が拡大されるということです。
財務省からは「集中率70%以上で処方せん回数月1200以上」、「処方せん回数2500回で集中率50%以上」という案が上がっていました。
また、特例除外とされていた24時間開局薬局も引き下げの対象となり、20店舗以上など店舗数の多い法人薬局や、医療モール・医療ビル等の特定の医療機関との関係性が深いとみなされる薬局などについても引下げを検討するようです。
さらに、投与日数に応じて増加するようになっている調剤料や一包化加算の仕組みを見直すことも盛り込まれているようです。
かかりつけ薬局が算定可能な調剤基本料?
現時点で具体的な案として挙がっているものには、基準調剤加算に加え、包括的な点数を新設するというものです。
調剤版の地域包括診療料のようなものを新設する方向で議論されているようです。
これが、かねてより言われて来たかかりつけ薬局としての評価となるのでしょうか?
包括的な点数というのがイメージできませんが、月1回算定可能で、月2回もしくは3回受診したら通常の調剤基本料よりもかかりつけ薬局の方が安くなるような点数設定のような感じでしょうか?
それか、薬学管理料である薬歴管理料と調剤基本料を包括するような点数なのでしょうか?
基準調剤加算の厳格化
基準調剤加算に用件を追加することも検討されています。
現状、その体制が算定要件となっている24時間対応・在宅訪問を実績ベースに変更するという案が出ています。
24時間対応の実績ベースですが、体制をとっている薬局のうち、実際に対応を行った薬局が6割程度ということが議論のもとになっているようです。
もし、そうなった場合、万が一、一年間に一回も、幸運なことに自薬局の患者さんが時間外に困るようなことがなかったら、それでは算定要件を満たさず、基準調剤加算は算定不可ということになってしまうのでしょうか?
・・・・・・。
書きながら思いましたが、一年間にまったく夜間対応がないというのは、患者さんへの周知が足りていないためだと言われそうですね。
在宅訪問の実績は、やはり基準1が現行基準2の年間10件となり、基準2が厳格化されるのでしょうか?
在宅薬剤管理指導料の薬剤師一人の一日当たりの制限については緩和される方向で議論されているという話もありますね。
また、そのほかにも、
- 休日・夜間対応等の開局時間
- 相談時のプライバシーの配慮
- 一定時間以上勤務する薬剤師(かかりつけ薬剤師)
を基準調剤加算の算定要件にすべきという案も出たようです。
開局時間については、平日(木曜日等)の午後に閉局している薬局が基準調剤加算を算定しているのはいかがなものかという議論もされているので、そのあたりが算定要件に加わるのかもしれませんね。
プライバシーの配慮については、すでに通則でパーティションで区切る等が求められていますね。
一定時間以上勤務する薬剤師というのは、人手不足の薬局では難しいかもしれませんね。
また、今回の中医協総会とは別に、後発医薬品の使用量も基準調剤加算の算定要件となるという案もあるとの噂です。
服用薬の一元的・継続的管理を促す改定
薬局・薬剤師バッシングが目立った2年間でしたが、その中で明るい話題だったのが、薬局・薬剤師による残薬管理とその解消だったのではないでしょうか?
ブラウンバッグ運動についての評価
残薬管理・一元管理の代表的な取り組みとしてブラウンバッグ運動があります。
http://plaza.umin.ac.jp/~brownbag/plaza.umin.ac.jp
学会や雑誌等で見かけたことがある人も多いのではないかとは思います。
患者さんにブラウンバッグと呼ばれる袋をお渡しし、残薬や市販薬、健康食品等、家にあるすべての薬を持ってきてもらい、薬局で残薬調整や相互作用の確認を行うというものです。
こちらから、ブラウンバッグを渡すことで、次回来局時や受診までの間に患者さんは持参しやすくなるというものです。
このブラウンバッグ運動が例に挙げられ、ブラウンバッグを評価する点数の新設が案として出されています。
調剤報酬外で行われていた活動が点数として評価されるのはお薬手帳以来のことではないでしょうか?
すべての薬局にブラウンバッグが設置され、患者さんにお渡し(レンタル?)するようになるんでしょうか?
投薬後の服薬管理
これまでの調剤業務い対する評価としては処方せん受付から投薬完了がメインで、調剤後については、長期投薬情報提供料くらいだったんじゃないかと思いますが、投薬後の管理を対象とした評価になりますね。
お薬手帳や外来服薬支援料も状況によっては、調剤後のものになりますね。
個人的には、薬局は、投薬後、つまりは投薬と投薬の間の期間をしっかり管理していくことを考えるのが大切と思います。
入院患者は、入院中その管理を受けることができますが、外来患者は受診・来局というのはその瞬間だけで、次の受診・来局までは自身で薬剤の管理を行うようになります。
これから、病院完結から地域医療にシフトしていく中で、受診・来局していない患者さんをどのように管理していくかということは大きなテーマになっていくのではないかと思います。
在宅では、薬物療法がメインとなるわけですから、そのカギを握るのは薬剤師じゃないかなとも思っています。
重複投薬・相互作用防止加算の緩和
薬剤の一元管理に関する加算として、「重複投薬・相互作用防止加算」がありますが、この算定率は1%に満たないとのことです。
実際には、もっと行われていると思うのですが、算定漏れもあるのではないでしょうか?
そこで、要件を緩和し、浸透を進めようという考えがあるようです。
提案された案として、
- 過去の副作用歴やアレルギー
- 同一医療機関などからの処方せんに基づく疑義照会
についても算定可能にしてはどうかということが議論されています。
同一医療機関についての疑義紹介で算定できないというケースはけっこうあるんじゃないかと思います。
過去の副作用歴やアレルギーについても同様で、ここを評価してもらえるのであれば、非常にうれしいなと思います。
薬剤服用歴管理指導料に関する改定
2回目以降の薬歴管理料の評価引き下げ
実際の業務に応じた評価体系を目標として、薬剤服用歴管理指導料は、2回目以降の点数を低く設定するべきという案が出されています。
同じ処方内容とした場合、2回目以降は、「薬剤情報提供文書の説明」、「患者ごとの薬剤服用歴の頭書き部分」について省略できる部分があるというのがその理由です。
これについては、患者にとって、同じ薬局で継続して投薬されることで、医療費が安くなるというインセンティブにもなりますね。
電子版お薬手帳の評価
さらに、電子版のお薬手帳も紙のお薬手帳と同様に算定要件を満たすものとして認めるという方向で議論されているようです。
これについては、薬局もですが、病院・医院での閲覧はどのように行うのでしょうか?
そこを理由に日医側からの反対があったと思うのですが、そのへんはどのように議論されたのでしょう?
何にせよ、単純に、同様に算定できるではすまず、紙ベースのメリットを考えた算定要件になるんじゃないかとは思います。
どこまでのマイナス改定となるのか?
実際問題、どこまでの減収になるのか?
自分たちが行うべきことも大切で、前向きに取り組んでいきたいと思っていても、薬局で働くものにとって、実際の経営が成り立つかどうかは一番大事な問題です。
今のところ、厚労省としては、今回の調剤報酬改定はそこまでの大きなマイナとせず、今後3年間で薬局の方向性を変えていくという考えのようです。
薬価改定の方が大幅な減算になりそうですね。
財務省の改革案をそのまま実行すると、個人薬局の多くが赤字に転落してしまい、地域医療に薬局・薬剤師を活用するということがますます困難になってしまう可能性があります。
そこで、小規模の改定の中で、薬局の進むべき方向性を転換していき、薬局・薬剤師の職能により医療費の適正化につなげていきたいという考えのようです。
とてもありがたいことなのですが、それに反発する意見も日医側等から上がっているようで、まだまだ油断はできない状態です。
でも、世の中の薬剤師の目が覚めるような改定となって欲しいという思いも個人的にはあります。
残念な話ですが、大幅なマイナスとならなかった場合、それで安心してしまう薬剤師や薬局経営者がいるのも確かなんだと思います。
今回、薬局の存続が危ないというような危機感をあおる報道がありましたが、その情報を手にして、実際に悩んでいるのは、元々そういった意識を持っている人たちのような気もします。
今回の改定が、厚労省の方々が期待しているように、自分も含めて、世の中すべての薬局・薬剤師が変わるきっかけとなる改定になって欲しいと思っています。