薬剤師の脳みそ

調剤(保険)薬局の薬剤師が日々の仕事の中で得た知識や新薬についての勉強、問題を解決する際に脳内で考えていることについてまとめるblogです。できるだけ実用的に、わかりやすく、実際の仕事に活用できるような情報になるよう心がけていきます。基本的に薬剤師または医療従事者の方を対象としています。

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ソブリアードカプセルとテラビック錠を比較してみる

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(ここからが記事本文になります)

ついに、直接作用型坑HCV薬ソブリアードカプセル(一般名:シメプレビルナトリウム:SMV)についてです。
2013年2月に承認申請された後、同年9月に承認、12月に販売開始となりました。
しかも、販売開始前の11月に改定されたC型肝炎治療ガイドラインでは、SMV/PEG-IFN/RBVの3剤併用療法が第一選択とされました。
申請から承認・販売までの早さも然ることながら、販売前にガイドラインで第一選択薬となったことから、HCV治療におけるそシメプレビルに対する期待の高さがわかります。
すでに販売から時間が経っていますがまとめてみたいと思います。
  
  

  
  

第二世代NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬

HCVの増殖に必須となるkey enzymeの一つのNS3/4Aプロテアーゼを阻害します。
シメプレビルはその中でも第二世代に位置づけられるもので、環状構造を持つことでプロテアーゼ阻害活性を高めたものです。
結果、より少ない用量でHCVの増殖を抑制することが可能となり、結果的に副作用を抑制することが可能となっています。
  
  

HCVプロテアーゼ阻害剤による3剤併用療法

テラビック錠(一般名:テラプレビル:TVR)の登場により、HCV治療は新たなステージに進みました。
テラビック錠の登場〜C型肝炎に対する第一世代プロテアーゼ阻害剤 - 薬剤師の脳みそ
これまでのPEG-IFNα2b/RBVによる二剤併用療法では、難治性と言われているジェノタイプⅠ型(主として1b型)高ウイルス量に対するSVR24率は約半分の49.2%でしたが、TVR/PEG-IFNα2b/RBVの三剤併用療法では73%と大きく上昇しました。
さらに、再燃例では88.1%、前無効例でも34.4%で効果が見られました。
また、治療期間の短縮にも成功しています。

  • 2剤併用療法:PEG-IFNα2b/RBV 48週
  • 3剤併用療法:TVR/PEG-IFNα2b/RBV 12週の後、PEG-IFNα2b/RBV 12週(合計24週)

  
  

テラビック錠の欠点

難治性のC型肝炎治療を大きく進めることができたテラプレビルでしたが、服用上の欠点とも言える部分が多いことが問題でした。
  

服用方法が煩雑

テラビックは臨床試験において8時間ごとの服用で検討されているため、可能な限りその形で投与する必要があります。
その場合、通常の薬剤のように毎食後の服用というわけにはいきません。
服用に際しては、時間的な束縛が強くなります。
  
それに加えて、高脂肪食の後で服用した場合と比べて、低脂肪食の食後では血中濃度が低下することが報告されています。
服用時間が食事と離れている場合は、何らかの形で脂肪分を含む軽食を摂取する必要があります。
  
これを12週間継続するのは、生活に与える負担が大きくなることが問題です。
  
また、併用できるインターフェロンがPEG-IFN-α2bと決まっているので、併用療法に使用できるのはペグイントロンとレベトールに決まっています。
  

副作用が多い

テラプレビルを使用するにあたって、一番の問題は副作用の多さかもしれません。
皮膚障害・腎機能障害・貧血・消化器障害・・・。
元々、IFN単独療法、PEG-IFN/RBV二剤併用療法でも副作用が非常に多いです。
その上、テラプレビルを加えることでさらに副作用が増加するので、使用にあたっては細心の注意が必要となります。
特に、皮膚障害に関してはSJS、TENなどの重篤なものが報告されています。
そのため、皮膚科専門医との連携体制なしでは使用できないよう制限されているほどです。
2剤併用療法でも多く見られる貧血も増加することがわかっています。
  
抗HCV治療においては治療の継続期間がSVRに大きく影響します。
少しでもプロトコル通りに治療を進めるためにも、副作用の頻度の高さは大きな障壁になります。
  
  

相互作用の多さ

CYP3A4、P-糖蛋白質、OATP1B1の阻害作用を有するため、併用禁忌とされる薬剤が非常に多いです。
特に、シンバスタチン(リポバス等)、アトルバスタチンカルシウム水和物(リピトール等、カデュエット配合錠)、トリアゾラム(ハルシオン等)のような、長期的に使用される機会の多い薬剤が併用禁忌となっているため注意が必要です。
  
  

まとめ

こういった問題点が多いため、テラビックに関しては院外処方せんが発行されず、院内での投薬のケースが多いように感じます。
また、皮膚科専門医との連携体制が求められているため、導入を諦めているケースもあったと聞いています。
  
  

シメプレビルのメリット

それに対して、シメプレビルはどうでしょうか?
結論から言うと、全てにおいてテラビックの欠点を克服しているのがソブリアードと言ってもいいと思います。
  
  

効果の高さ

投与24週間後のSVR率であるSVR24率の臨床成績を見てみるとその効果は明らかです。

  • SMV/Peg-IFNα-2a/RBV三剤併用療法のSVR24率=88.6%
  • Peg-IFNα-2a/RBV二剤併用療法のSVR24率=56.7%
  • SMV/Peg-IFNα-2b/RBV三剤併用療法のSVR24率=91.7%

TVR/PEG-IFNα-2b/RBVの三剤併用療法では73%ですから、単純に見ると、SMV/Peg-IFNα-2a/RBVの88.6%が大きく上回っています。
ただし、この部分については検討環境が異なるのと、TVR/PEG-IFNα-2b/RBVの三剤併用療法に関しても販売後にプロトコルが見直されており、SVR率が向上し、SMV/Peg-IFNα-2a/RBVの結果にかなり近づいているようです。
  
また、再燃例に対するSMV/Peg-IFNα/RBVのSVR24率は89.8%、前無効例に対するSVR24率は50.9%となっており、これについてもTVR/PEG-IFNα-2b/RBVよりも高い値となっています。
  
  

服用方法が容易

用法・用量を見てみると、

通常、成人にはシメプレビルとして100mgを1日1回経口投与し、投与期間は12週間とする。本剤は、ペグインターフェロン アルファ-2a(遺伝子の組換え)又はペグインターフェロン アルファ-2b(遺伝子組換え)、及びリバビリンと併用すること。

なんと一日一回!
しかも、シメプレビルは食事による影響を受けません。
なので、飲みやすい時間帯があればそこに決めて服用することが可能です。
  
また、PEG-IFN-α2a(ペガシス)、PEG-IFN-α2b(ペグイントロン)両方の併用が認められているので、
ソブリアード+ペガシス+コペガス、ソブリアード+ペグイントロン+レベトールの両方の処方が選択可能です。
  
カプセルが少し大きいので飲みにくいかもしれないのが欠点ではあります。
  
  

副作用の少なさ

テラビックを使用する3剤併用療法では、従来の2剤併用療法よりも副作用が大きく上昇することが問題でしたが、ソブリアードを使用する3剤併用療法では、従来の2剤併用療法と比較しても、有害事象の著しい増加が認められていません。
なので、テラビックの皮膚科専門医との連携体制のような使用条件もありません。
これは第2世代プロテアーゼインヒビターの特徴である低濃度でのHCV抑制効果の発現により、使用量が抑えられていることの恩恵だと思います。
  
また、テラビックでは副作用の多さから高齢者に対する一定の年齢制限がありましたが、ソブリアードではそれはほとんどないと言ってもいいと思います。
ただし、元々インターフェロンやリバビリン自体が高齢者に対しては注意が必要な薬なので、その部分で注意が必要なことは変わりません。
  
ただし、シメプレビル特有の副作用もあります。
一過性のビリルビン上昇と、頻度は低いですが光過敏症が報告されていますので、それらには注意が必要です。
  
  

相互作用の少なさ

CYP3A4による代謝を受け、P-糖蛋白質、OATP1B1の基質です。
また、CYP3A4、P-糖蛋白質、OATP1B1の阻害作用を有するのはテラビックと同じですが、併用禁忌はぐっと少なくなっています。
併用禁忌とされているのは、エファビレンツ(ストックリン)、リファンピシン(リファジン等)、リファブチン(ミコブティン)のみで、その理由はこれらの薬剤によるCYP3A4の誘導作用で、シメプレビルの血中濃度が低下するためです。
  
シメプレビルの血中濃度上昇による副作用増加が禁忌に含まれないのがすごいですよね。
とは言っても、その性質上、併用注意に含まれる薬剤は多くなりますから注意して併用を検討する必要があります。
  
  

シメプレビル併用療法の医療費助成

HCV-RNA陽性のC型慢性肝炎のうち、肝癌合併がない場合に限り助成が認められています。
テラプレビルを含む3剤併用療法の治療歴がある場合でも、医師が必要と判断すればシメプレビルを含む3剤併用療法による再治療も助成の対象となります。
助成の期間は24週間ですが、前治療無効例に限り、最大48週まで延長が可能となっています。
  
  

まとめ

やはり一番のメリットは副作用の少なさです。
HCV治療は、HCV-RNAが陰性となる期間が長ければ長いほどSVR率が高くなります。
副作用が少なければ、それだけ長い期間服用を継続できるわけですから、多くのケースで12週間の服用を達成できるのは大きいです。
  
皮膚科専門医との連携体制がとれないため、今までテラビックによる3剤併用療法を実施できなかった病院でも導入を行えることも大きいです。
これにより、治療に挑戦できる患者さんも増えると思います。
  
用法の簡便さも患者さんの負担を減らすことが可能です。
ソブリアード由来の副作用が少ないと言っても、PEG-IFN/RBVの副作用だけで患者さんの負担はかなり大きいです。
その中で、制限の厳しい用法で服用を継続するのはやはり辛いと思います。
少しでも負担が少ないほうが継続率の向上にもつながりますし、適正使用にもつながりますね。
  
ソブリアードの出現により、3剤併用療法は本当の意味でのスタンダードになったと思います。
ですが、近い将来さらなる新薬が登場する予定です。
インターフェロンフリー(IFNなし)の治療法も臨床試験に入っています。
HCV治療は新たなステージに入ったと言えますね!

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