薬剤師の脳みそ

調剤(保険)薬局の薬剤師が日々の仕事の中で得た知識や新薬についての勉強、問題を解決する際に脳内で考えていることについてまとめるblogです。できるだけ実用的に、わかりやすく、実際の仕事に活用できるような情報になるよう心がけていきます。基本的に薬剤師または医療従事者の方を対象としています。

このブログは薬局で働く薬剤師を中心とした医療従事者の方を対象に作成しています。
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サムスカ ADPKDへの適応追加

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2014年2月24日 厚生労働省薬食審第一部会で了承されていたサムスカ(一般名:トルバプタン)の新規適応が3月24日、正式に承認されました。
それに合わせてサムスカ錠30mgが新たに規格追加となります。

サムスカと言えば、昨年7月に「重大な肝機能障害の回避のための肝機能検査」が呼びかけられました。
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201305_1.pdf#search='%E3%82%B5%E3%83%A0%E3%82%B9%E3%82%AB+%E8%82%9D%E9%9A%9C%E5%AE%B3'

また、9月15日「ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な肝硬変における体液貯留」の適応が追加になっています。
平成25年9月13日 ネスプ・ソリリス・サムスカ適応追加 - 薬剤師の脳みそ

ADPKDについて

ADPKDとは?

常染色体優性多発性嚢胞腎(Autosomal Dominant Polycystic Kidney DiseaseADPKD)は腎臓に嚢胞が多発することによって腎臓が肥大することにより、様々な影響を及ぼす疾患です。
嚢胞が拡大することにより、腎臓が圧迫され、GFR(糸球体濾過量)の低下・レニン-アンジオテンシン系の賦活による高血圧が起こります。
最終的には正常腎組織が圧迫により機能を失い、腎機能が低下、腎不全に至る疾患です。

発症は20~30代、そのうち半数は70代までに末期腎不全となり、人工透析や腎移植を受けるようになります。
国内には約3万人のADPKD患者が存在するとされています。

ADPKDの原因

原因はPKD1遺伝子またはPKD2遺伝子の異常によるもので、約85%がPKD1の遺伝子変異、残り約15%がPKD2遺伝子変異を原因とするものです。
これらの遺伝子異常によりポリシスチンというタンパク質が合成されなくなります。
ポリシスチンは細胞室内にカルシウムイオンを取り込むことで尿細管の構造を保持する役割を持っています。
APDKDにおいてはポリシスチンが合成されないため、尿細管の構造を崩し、嚢胞化を勧めてしまいます。

ADPKDとバソプレシン

抗利尿ホルモンとも呼ばれているバソプレッシンは、腎細胞膜に存在するV2受容体に結合することによってシグナル伝達を開始します。
その結果、管腔内の水分を細胞内に再吸収することにより抗利尿作用を促進します。

ADPKDにおいては、バソプレシンがV2受容体に結合することにより、cAMPが産生され、嚢胞の形成・嚢胞内への嚢胞液の分泌が促進されてしまいます。

トルバプタンとADPKD

トルバプタンはバソプレシンがV2受容体に結合するのを阻害することで利尿を促進する薬です。
作用部位に注目することで世界初のADPKDの治療薬として開発が進められました。
日本での承認が世界初で、米国FDAでは審査完了後 追加データの申請中、欧州でも申請が完了している状態です。

サムスカの適応追加

今回、サムスカ錠に「腎容積が既に増大しており、かつ、腎容積の増大速度が速しご常染色体優性多発性のう胞腎の進行抑制」の適応が追加となりました。
常染色体優性多発性のう胞腎の進行抑制の場合の用量は、
「1日60mgを2回(朝45mg、夕方15mg)に分けて経口投与を開始する。1日60mgの用量で1週間以上投与し、忍容性がある場合には、1日90mg(朝60mg、夕方30mg)、1日120mg(朝90mg、夕方30mg)と1週間以上の間隔を空けて段階的に増量する。なお、忍容性に応じて適宜増減するが、最高用量は1日120mgまでとする。」
となっており、この承認追加に伴い30mgの規格が追加となっています。
ちなみに、30mg錠はADPKDのみの適応です。

心不全による体液貯留の適応が一日一回15mg、肝硬変による体液貯留が一日一回7.5mgなので、一日二回 一日60〜120mgは区別がつきやすいですね。

承認条件

ただし、ADPKDに関する適応の追加には条件が定められています。

常染色体優性多発性のう胞腎の治療及び本剤のリスクについて十分に理解し、投与対象の選択や肝機能や血清ナトリウム濃度の定期的な検査をはじめとする本剤の適正使用が可能な医師によってのみ処方され、さらに、医療機関•薬局においては調剤前に当該医師によって処方されたことを確認した上で調剤がなされるよう、製造販売にあたって必要な措置を講じること。

ADPKDに対する世界初の治療薬と言うことで使用経験が少ないことと、元来、体液貯留に対する強力な利尿剤として使用されている薬であること、肝機能障害のリスクがあることがこの承認条件の理由なんだと思います。

サムスカ処方時の業務手順

サムスカ ADPKD e-Learning

承認条件を満たすため、サムスカのADPKDに対する処方は、ADPKDについての十分な知識と本剤に関する十分な知識を持つ「受講修了医師」のみが処方可能とされています。
そこで、医師は事前に「ADPKDの診療及びサムスカ錠適正使用に関する講習(サムスカ ADPKD e-Learning)」を受講修了し、「確認テスト」に合格することで「受講修了医師」として登録される必要があります。
登録された医師には受講修了証と処方時に患者さんに渡すサムスカカードが配布されます。

調剤の際の確認フロー

薬局ではADPKDに対するサムスカの調剤前に処方医が受講修了医師であることを確認する必要があります。

①処方内容からADPKDかどうかを判断。(1日2回、1回60mg以上、30mg錠)
②ADPKDと推定される場合、患者さんが処方医名の記されたサムスカカードまたは受講修了証の写しを持っているかを確認。
③疑義照会でサムスカPKD登録医師であるこを確認。
④医師に連絡が取れない場合、大塚製薬医薬情報センターに問い合わせ。
⑤処方医が登録なしの場合、医師に調剤できない旨を伝え、処方希望の場合は大塚製薬に連絡するように伝える。薬局からも大塚製薬に連絡する。

となっています。
ADPKDは決してよく見る疾患ではありませんが、処方を見たときスムーズに対応できるようになっていたいですね。
近隣の病院などで30mgが採用された場合は処方医は間違いなく登録されるとは思いますが、処方箋受付時に迷わず対応できるよう薬局内の対応の準備をしておきたいです。

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