薬剤師の脳みそ

調剤(保険)薬局の薬剤師が日々の仕事の中で得た知識や新薬についての勉強、問題を解決する際に脳内で考えていることについてまとめるblogです。できるだけ実用的に、わかりやすく、実際の仕事に活用できるような情報になるよう心がけていきます。基本的に薬剤師または医療従事者の方を対象としています。

このブログは薬局で働く薬剤師を中心とした医療従事者の方を対象に作成しています。
一般の方が閲覧した際に誤解を招くことのないように配慮しているつもりですが、医療従事者の方へ伝えることを最優先としています。
2020年11月からURLが変更となりました。(新URL https://yakuzaishi.love)
  

インターフェロンによるC型肝炎治療

m3.comで基礎知識を高めよう
薬剤師の脳みそではm3.comへの登録をお勧めしています。
メルマガやアプリで医薬ニュースを閲覧できるので、毎日医療ニュースに触れることができます。しっかり読む時間がなくても少しずつ知識をたくわえることができ、それが基礎的な力になります。未登録の方は無料登録できるので、是非、下のリンクから登録してください。

(ここからが記事本文になります)

C型肝炎シリーズ再開です。
元々はインターフェロンとリバビリンをあわせて書いていましたが、別々に分けてさらに詳しい内容に改定しました。

C型慢性肝炎の治療方法にはC型肝炎ウイルス(HCV)を排除する抗ウイルス療法と、肝細胞を保護して肝炎の沈静化をめざす肝庇護療法があります。
今回は抗ウイルス療法のインターフェロン治療について復習します。
体内に住み着いてしまったHCVを完全に除去するのは容易ではありません。
インターフェロンによる治療法が発見されるまで、HCVを除去する方法は存在しませんでした。


インターフェロン(IFN)には様々なタイプが存在していますが、現在医薬品として使用されているのはα、β、γの3種類です。
その中でも抗ウイルス作用が強いIFN-αとIFN-βがC型肝炎治療に用いられています。
ちなみに、interferonという名前は発見時の作用であるウイルス干渉因子(Interference Factorに由来しています。

自然免疫と獲得免疫

生体内でウイルスと戦う免疫機構には自然免疫と獲得免疫があります。
獲得免疫というのは、抗体による免疫です。
ウイルスなどが体に侵入した後、免疫機構がその特定の抗原に対する抗体を作り出します。
抗体を獲得すれば、そのウイルスに対し、抗原-抗体反応を起こすことが可能となります。
ワクチンなどの予防接種もこれを利用したものです。
獲得免疫は抗体を作るまでに時間がかかるものの、強い免疫を得ることができる効率のよい防御機構です。

これに対して自然免疫とは、特定の抗原に反応するのではなく、体に侵入してきた様々な異物に対して反応するものです。
もし、人間が獲得免疫しか持っていなければ、初めて出会うウイルスにはすべて感染してしまいます。
ですが、自然免疫があるおかげで、感染力の弱いウイルスから身を守ることができています。

獲得免疫は特定の抗原に対する強い免疫、自然免疫は様々なものに対応できる弱めの免疫です。
正体不明の外的から最初に身を守るのが自然免疫、相手が特定できたときに強い効果を発揮するのが獲得免疫ということですね。

獲得免疫の方が効率的なのですが、HCVにおいては効果がありません。
これはHCVウイルスの外郭(エンベロープ)が変異を起こしやすいのが原因です。
あるエンベロープをもつHCVに対する抗体が作られても、その時にはすでにエンベロープが変異を起こし、その抗体が無効となっています。
結果、HCVに対しては自然免疫に期待するしかありません。

HCVに対するIFNの働き

C型肝炎の慢性化率は7割と言われています。
逆に言えば、自然免疫で3割の人がC型肝炎を完全に倒しているということです。
この自然免疫において重要な役割を担うのがインターフェロンです。
インターフェロンは生体内のウイルスや病原体、腫瘍細胞に反応して産生されるタンパク質の一種です。
例えばインフルエンザウイルスに感染した際にも体内では大量のインターフェロンが産生されています。
インターフェロンが発見された時は、ウイルスや腫瘍を倒すことができる魔法の薬になるのではないかと期待されました。

生体内にウイルスが侵入した場合、toll様受容体がそれを認識、インターフェロンなどの産生を促し、自然免疫を活性化させます。

インターフェロンは細胞膜にある受容体に結合することで、細胞内にシグナル伝達が行います。
その結果、免疫に関する物質が産生され、ウイルスや腫瘍などを攻撃することが可能となります。
実際に体内にHCVが侵入した場合もこの機構が働くのですが、感染力の強いHCVは生体内で作られるインターフェロンだけでは倒すことができないので、注射により大量のインターフェロンを追加する必要があります。

抗HCV薬として使用されているIFN

医薬品としてC型肝炎治療に使用されているインターフェロンには様々なものがあります。

「天然型インターフェロン」

ハムスターにヒトの細胞を埋め込み、さらに、HCV遺伝子を組み込むことでIFNを産生させます。
遺伝子組み換え型よりも副作用が少ないのが特徴です。
インターフェロンベータは天然型のみが使用されています。
アルファに比べてベータはうつの副作用が起こりにくいようです。
天然型インターフェロンアルファは自己注射が承認されています。

  • インターフェロンアルファ(IFNα):オーアイエフ、スミフェロン(皮下注、筋注)
  • インターフェロンベータ(IFNβ):フエロン(静注)

「遺伝子組み換え型インターフェロン」

インターフェロンには様々なサブタイプがありますが、その中の特定のサブタイプの遺伝子を大腸菌に組み込み、生産させたものです。

  • インターフェロンアルファ2b(IFNα-2b):イントロンA(筋注)

「ペグインターフェロン」

遺伝子組み換え型インターフェロンにポリエチレングリコールを添加することで、IFNが血中にとどまる時間を長くし、少ない注射回数で、より高い効果を発揮するように改良したものです。

  • ペグインターフェロンアルファ2a(PEG IFNα-2a):ペガシス(皮下注)
  • ペグインターフェロンアルファ2b(PEG IFNα-2b):ペグイントロン(皮下注)

「コンセンサスインターフェロン」

インターフェロンαに存在するサブタイプのうち13種類のアミノ酸配列を分析し、もっともよく見られる(コンセンサス=一致する)アミノ酸のみを抽出して作られた合成インターフェロンです。
IFNα-2bにくらべて、IFN受容体の親和性が高い、うつの副作用がでにくいなど、抗ウイルス量の症例への効果が期待されましたが、思ったほどの効果は出ず、販売中止となりました。

  • インターフェロンアルファコン-1(IFNα-con):アドバフェロン、インファジェン(皮下注)

インターフェロンによる副作用

インターフェロンは非常に多くの副作用を引き起こします。
代表的なものの一つにインフルエンザ様症状がありますが、そもそもインフルエンザの症状自体がインターフェロンにより引き起こされているものなので当然のことです。
具体的には発熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感、食思不振、意欲低下といったものです。
ほかには、白血球減少、血小板減少、甲状腺機能異常、耐糖能異常、間質性肺炎、神経精神症状、眼底出血、脱毛、皮膚症状、循環器症状など多岐に渡ります。
間質性肺炎については
イグザレルトと間質性肺炎 - 薬剤師の脳みそ
でも少し紹介しました。
インターフェロン服用中は小柴胡湯の服用は避けるべきです。
また、うつ症状も有名ですが、甲状腺機能異常がうつ病の発症と関連するとも言われていますので、それが原因なのかもしれません。

HCVの遺伝子型とIFNの効果

ジェノタイプとセログループ〜C型肝炎ウイルスの型について - 薬剤師の脳みそ
でも紹介しましたが、日本人のC型肝炎患者の7割はHCVジェノタイプ1bによるものです。
ジェノタイプ1bに対してインターフェロン単独療法を行った場合のHCV RNAの陰性化率は14~18%。
ジェノタイプ1bの高ウイルス量の症例では約5%です。
つまり、多くの日本人においてはインターフェロン単独療法による完治はあまり期待できません。
そこで、現在はインターフェロンとリバビリンの2剤併用療法、さらにプロテアーゼ阻害剤を加えた3剤併用療法が主流となっています。
これについてはまた別に詳しくまとめます。

インターフェロンの自己注射

天然型インターフェロンアルファの単独療法に限ってですが、自己注射が認められています。
これにより、週3回の通院が困難なケースでも治療が可能となりました。
自己注射用の製剤にオーアイエフ注射用、スミフェロン注DSがあり、連日または週3回注射を行います。
また、就寝前に使用することでIFNの血中濃度をコルチコステロイドの体内変動に適応させることが可能となり、発熱などの副作用を減らすことが可能です。

ペグインターフェロン

現在、IFN治療においてはペグインターフェロン製剤が主力となっています。
人体に無害な合成高分子ポリエチレングリコール(PEG)を付加することでインターフェロンの吸収・排泄時間を引き伸ばした製剤です。
IFN-αの血中半減期は8.5時間ですが、PEG IFN-αは90時間にもなります。
従来のIFN療法では最低週3回は注射が必要でしたが、PEG-IFNでは週1回ですみます。
これにより、患者の通院回数を1/3に減らすことが可能となり、患者さんの負担が大きく減り、これまで治療をためらっていた患者さんも治療を行うことが可能となりました。
また、従来のIFNに比べ、IFN血中濃度の変動が少ないため、副作用が起こりにくいのが特徴です。

現在、二種類のPEG-IFNが発売されています。
PEG IFNα-2a:ペガシス(中外製薬)とPEG IFNα-2b:ペグイントロン(MSD)の二剤です。
この二つ自体の効果に大きな差はないという考えもあるようですが、PEG IFNα-2a(40kDa)はPEG IFNα-2b(12kDa)に対して分子量が大きく、これが生体内での分布に影響し、効果や副作用で差が出るのではないかという考えもあります。
実験的な結論としては効果に差がなかったのですが、両者の使用方法の違いもあり、はっきりはわかりません。

現在、主流であるリバビリン(RBV)との併用療法の承認が早かったのがペグイントロンだったこともあり、ペグイントロンを採用している病院が多い印象があります。
2004年12月:ペグイントロン+レベトール(RBV)、2007年3月:ペガシス+コペガス(RBV)

現在はどちらもRBVとの併用療法が可能ですが、効能・効果や用法・用量が異なります。

ペグイントロン・ペガシスの効能・効果と用法・用量の比較

ペグイントロン
1.リバビリンとの併用による次のいずれかのC型慢性肝炎におけるウイルス血症の改善
(1)血中HCV RNA量が高値の患者
(2)インターフェロン製剤単独療法で無効の患者又はインターフェロン製剤単独療法後再燃した患者
1回1.5μg/kgを週1回皮下投与
2.リバビリンとの併用によるC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善
1回1.0μg/kgを週1回皮下投与

ペガシス
45μg
リバビリンとの併用によるC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善
1回90μgを週1回、皮下に投与
90μg・180μg
1.C型慢性肝炎におけるウイルス血症の改善
1回180μgを週1回、皮下に投与
2.リバビリンとの併用による以下のいずれかのC型慢性肝炎におけるウイルス血症の改善
(1)セログループ1(ジェノタイプI(1a)又はII(1b))でHCV-RNA量が高値の患者
(2)インターフェロン単独療法で無効又はインターフェロン単独療法後再燃した患者
1回180μgを週1回、皮下に投与
3.リバビリンとの併用によるC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善
1回90μgを週1回、皮下に投与

単剤で使用できるのはペガシスだけですね。
セログループ2でHCV RNA量が高値のケースで使用できるのはペグイントロンだけのようです。
また、ペグイントロンは用量を細かく設定できるので使い方で副作用・効果に影響が出そうな気がします。


併用療法や現在のガイドラインについてはまた別にまとめようと思います。

© 2014- ぴーらぼ inc. プライバシーポリシー