薬剤師の脳みそ〜くすりと医療制度

調剤(保険)薬局の薬剤師が日々の仕事の中で得た知識や新薬についての勉強、問題を解決する際に脳内で考えていることについてまとめるblogです。できるだけ実用的に、わかりやすく、実際の仕事に活用できるような情報になるよう心がけていきます。基本的に薬剤師または医療従事者の方を対象としています。

ナウゼリン(ドンペリドン)の内服薬(錠剤・細粒・ドライシロップ)と坐剤で用量が異なる理由

新人薬剤師さんへ
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吐き気止めとして小児から大人まで幅広く使用されているナウゼリン(成分名:ドンペリドン)ですが、錠剤・細粒・ドライシロップなど飲み薬の用量と座薬の用量を比較した際に、座薬の方が圧倒的に用量が多くなっています。
以前、兄弟で胃腸炎になってしまったお子さんの薬を説明しているときに、お母さんから「上の子の錠剤の方がmg数が小さいんですね」と鋭い指摘を受けたことがあります。
皆さん、どのように説明していますか?
  
  

  
  
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ドンペリドン製剤の一覧と用量

まずは簡単に情報を整理します。
  

販売中の医療用製剤一覧(平成30年6月)

先発品であるナウゼリンを初めとするドンペリドン製剤には以下の医療用医薬品が存在します。(平成30年6月 時点)  

内服薬と外用薬の用量の違い

内服・外用それぞれの用量は以下のようになっています。
年齢 ドンペリドン用量
内服薬 坐剤
成人 1日30mg 分3 1回60mg 1日2回
小児 6歳以上 1日1.0mg/kg 分3 1回30mg 1日2~3回
3才以上6歳未満 1日1.0~2.0mg/kg 分3
3歳未満 1回10mg 1日2~3回
成人の内服1日量が30mgなのですが、坐剤を見てみると3歳の時点ですでに1回30mgを使用するようになっています。
ということで、改めて用量が「坐剤>内服」となっていることが確認できたと思います。
  
  

内服と外用でドンペリドンの用量が異なる理由

ここからが本題です。
用量が「坐剤>内服」となっているのは、内服ドンペリドンの方がより少ない量で効果を発揮することに他なりません。
そのことは臨床試験でも確認されています。
では、それは何故か?ということについて説明します。
  

ドンペリドンの作用機序

ナウゼリンの有効成分であるドンペリドンの作用機序について復習しておきましょう。
添付文書には以下のように記載されています。
薬効薬理
上部消化管並びにCTZに作用し、抗ドパミン作用により薬効を発現する。なお、生化学的実験等により血液-脳関門を通過しにくいことが確かめられている。
  
添付文書に記載されているように、ドンペリドンはドパミンD2受容体を遮断することにより制吐作用を発揮します。
制吐作用においてターゲットとなるドパミンD2受容体は次にあげる2ヶ所に存在するものです。

  • 抹消ドパミン受容体:上部消化管
  • 中枢ドパミン受容体:CTZ*1

つまり、ドンペリドンは末梢性・中枢性の2つのドパミンブロッカーとして制吐効果を発揮します。
  
ただし、添付文書にも記載されているように、ドンペリドンは血液-脳関門(BBB*2)を通過しにくいため、メインとなるのは末梢性(上部消化管)のドパミンD2受容体をブロックする作用になります。
  

ドンペリドンは胃壁で直接効果を発揮

経口投与されたドンペリドンは胃の中で溶解し、小腸から吸収され、血液を介して、上部消化管やCTZに作用します。
ですが、実は吸収される前にも効果を発揮することが知られています。
実は胃壁にもドパミンD2受容体は存在しており、溶解したドンペリドンはそこに直接作用し効果を発揮することが知られています。
当然ですが、直腸から吸収される坐剤は胃壁への直接作用を発揮することは不可能で、血中からの作用のみになります。
  
「内服薬であれば吸収される前に消化管内でも効果を発揮することができる」
これがドンペリドンの坐剤と比較して内服薬が少ない用量で効果を発揮することができる理由になります。
  

食前服用することで十分な効果を発揮

また、ドンペリドンの用法は食前となっています。
当然ですが、空腹時の方が胃壁に接しやすくなるので上部消化管への直接作用を発揮しやすくなります。
また、ドンペリドンを内服した場合、Tmax=0.5hrとなっています。
血中濃度が最大となる30分後が食事の時間と重なり、効果を実感できる時間帯になっています。
  
  

実は坐剤の方が吸収速度が遅い

直腸から吸収される坐剤の方が一般的に吸収速度が速いと言われていますが、それは全ての薬剤に当てはまる訳ではありません。
ドンペリドンの場合も当てはまりません。
実際に、Tmaxを比較してみると・・・。

  • ドンペリドン(内服):Tmax=0.5hr
  • ドンペリドン(坐剤):Tmax=2.0

坐剤の方が4倍長くなっています。
  
実際に、ドンペリドンを内服した場合に効果を感じる目安は30分とされていますが、坐剤の場合は1時間前後です。
この辺りもドンペリドン坐剤の用量設定に影響を与えているのではないかと思います。
  
ちなみにアセトアミノフェン(カロナール、アンヒバ等)の吸収速度についても内服より坐剤の方が遅いことが知られています。
ph-minimal.hatenablog.com
  
  

まとめ

冒頭に書いたお母さんに対する返事ですが、以下のように答えたと思います。

今回出ている吐き気止めのお薬は体に吸収される前に胃の中で直接作用することでも効果を発揮します。
そのため、坐薬に比べて飲み薬の方が少ない量で素早い効果が期待できます。
ですが、水を飲んでも吐いてしまうような場合、飲み薬を服用するのが難しいので座薬を使って吐き気を鎮める必要があります。
お兄ちゃんの方が症状が軽く、水分程度なら摂取できているようなので少ない量で効果を発揮する飲み薬になっています。飲んで30分くらい経てば効果が出ると思います。
弟くんの方は水分を摂るのもしんどそうなので、坐薬を使って一時間程度待ってあげて、少しずつ水分を摂らせてあげて様子をみてくださいね。

  

改めてドンペリドンの内服と坐剤について比較してみる

内服と比較して効果の発揮に多くの量が必要になる坐剤。
直腸投与にも関わらず吸収が遅いため、効果発現が遅れるのも残念なのですが、直腸投与は初回通過効果を受けないために全身への暴露量も内服に比べてかなり多くなってしまいます。
ドンペリドン 内服 坐剤
効果発揮の目安 30分程度
Tmax=0.5hr
1時間程度
Tmax=2.0hr
使用量 低用量でOK
10mg/回
高用量必要
30mg/回
暴露量 少ない
AUC=35.5±7.9ng・hr/mL
多い
AUC=225.5ng・hr/mL
(※データは健康成人に使用した場合)
  
ドンペリドンはBBBを通過しにくいとは言っても、錐体外路症状が副作用として知られています。
暴露量が増えることでその頻度が増えるのではないかとも思いましたが、内服・坐剤ともに0.03%で添付文書を見る限り頻度に差はありません。
ただし、その他の副作用の肝臓項目(肝機能異常〔AST(GOT),ALT(GPT),γ-GTP, ビリルビン, Al-P, LDH上昇等〕)の頻度が内服(0.1%未満)に比較して、坐剤(0.1~5%未満)が高くなっています。
ですので、内服で問題ないのであれば内服で対応した方が無難かなと言った感じですね。
  

小児の嘔吐に対する制吐剤の効果は?

少し余談になりますが、小児の急性胃腸炎に対するドンペリドンの効果については有効ではないと示唆している論文もあるので、どの程度の症状で使用するかというのは判断が難しいところもあるかもしれませんね。
www.dr-kid.net

*1:Chemoreceptor Trigger Zone:化学受容器引き金帯、第四脳室に存在し、嘔吐中枢への刺激の引き金となる

*2:Blood-Brain Barrier