薬剤師の脳みそ

調剤(保険)薬局の薬剤師が日々の仕事の中で得た知識や新薬についての勉強、問題を解決する際に脳内で考えていることについてまとめるblogです。できるだけ実用的に、わかりやすく、実際の仕事に活用できるような情報になるよう心がけていきます。基本的に薬剤師または医療従事者の方を対象としています。

このブログは薬局で働く薬剤師を中心とした医療従事者の方を対象に作成しています。一般の方が閲覧した際に誤解を招くことのないように配慮しているつもりですが、医療従事者の方へ伝えることを最優先としています。何卒、ご理解ください。   

歯科でのアモキシリン単回投与〜感染性心内膜炎(菌血症)の予防

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(ここからが記事本文になります)

ある日届いた一枚のFAX処方箋に薬局がざわつきました。
歯科から4歳の男の子に対して出された処方です。

処方内容

サワシリン細粒10% 7.5g
1日1回 医師の指示通り 1日分

えー!何これ!?
  
  

サワシリンと感染性心内膜炎
  
  

歯科でのサワシリン単回投与

処方内容をまとめます。
処方内容

  • 年齢:4歳
  • 性別:男
  • 体重:15kg
  • サワシリン細粒10%(一般名:アモキシシリン細粒10%) 7.5g
    1日1回 医師の指示通り 1日分

  

疑問だらけの処方

1回の服用量は多いし、用法は1日1回、日数は1日。
いろんな疑問が生じました。
  

1回分だけでいいの?

「1日1回 1日分」
ってことはつまり1回飲みきりの処方ってことです。
  
添付文書に記載されているサワシリンの用法は「1日3〜4回」。
1回飲みきりの用法なんて記載されていません。
  
処方日数が1日分だけってことも不思議です。
感染症治療であれば、最低でも3日間は服用するはずですよね。
  

1回量が非常に多い

そして処方量。
サワシリンの添付文書を見ればわかるように、通常は1日20〜40mg(力価)/kgを3〜4回に分けて服用します。
  
今回の場合、体重15kgに対して「サワシリン細粒10% 7.5g」で処方されています。
つまり、アモキシシリン(力価)750mgを1日1回ということになりますから、体重換算すると1回量が50mg(力価)/kgとなってしまいます。
通常だと1日3〜4回に分けて飲む量よりもさらに多い量を1日1回にまとめて服用するということになりまね。
一回量で見れば通常の5倍を服用する計算になります。
  

感染症の予防では?

「1日1回 医師の指示通り 1日分」
あまり間違って入力される内容ではないですよね。
  
抗生物質を一回のみ大量投与・・・ってことは感染症の予防?
と考えられますよね。
細菌に接触する瞬間だけ抗生物質にしっかり効果を発揮させるということです。
  

出生直後の利尿剤服用歴

薬歴をさかのぼってみると気になる処方が見つかりました。
その患者が新生児のころの処方内容。
処方内容

  • 年齢:生後2週
  • 性別:男
  • 体重:3,800g
  • ラシックス細粒4% 0.19g
    アルダクトンA細粒10% 0.76g
    1日1回 朝食後 14日分

  

心室中隔欠損症

出生直後の利尿剤服用。
ここから想像できる病名が今回のサワシリンの処方量に繋がります。
そう、この子は「心室中隔欠損症」でした。
  
心室中隔欠損症

心室中隔に穴が空いているために左室と右室が繋がった状態になってしまう先天性疾患です。
穴が大きい場合は、肺動脈に流れる血流量が増え、肺高血圧症を起こしてしまいます。
小児の先天性疾患としては最も多く、1000人に3人の割合で発症すると言われています。
成長とともに穴は小さくなっていくことが多く、およそ半分は生後一年以内に自然と穴が塞がります。
心不全を起こしやすいため、心臓の負荷を減らすために利尿剤を服用します。強心剤を服用する場合もあります。

  
ちなみに、今回のケースではラシックス(一般名:フロセミド)もアルダクトン(一般名:スピロノラクトン)も2mg/kgで処方されていますが、1〜3mg/kgで使用されるのが一般的なようです。(増減があると思います)
  
今回の処方に戻ります。
もうわかった方も多いのではないかと思いますが、今回の処方は心室中隔欠損症患者に対する感染性心内膜炎の予防です。
  
  

心室中隔欠損症と感染性心内膜炎

心室中隔欠損症の場合、血液中の細菌の侵入(菌血症)に細心の注意が必要です。
  

菌血症

血液中に細菌が侵入、存在している状態を菌血症と言います。
そのまま、菌やバクテリアが増殖すれば敗血症となってしまいますが、通常、菌血症自体は珍しいものでもなく、ほとんどの場合、免疫により細菌感染には至りません。
実際、歯磨きや食事の際の細かい傷でも軽微の菌血症は起こっています。
  
特に、歯科治療においては出血を伴いやすく、口腔内の細菌による菌血症を起こしやすいので注意が必要です。
抜歯などを行わなくても、虫歯を起こすような口腔内の不衛生自体が菌血症のリスクとなります。
  

感染性心内膜炎(細菌性心内膜炎)

心室中隔欠損症の場合、心室中隔(内膜)にできた穴に圧がかかるため、その部分に傷ができやすくなっています。
そのため、血液中に細菌が入ってしまった場合、高確率で感染性心内膜炎(IE*1)を発症してしまいます。
心臓内部に感染した細菌は炎症により心臓を破壊し、心不全などを引き起こす可能性があります。
贅腫という巣のようなものを形成してしまい、それが血流に乗って流れ、血栓を作り、脳梗塞などを引き起こしてしまう場合もあります。
また、贅腫の中に入った細菌を完全に倒すのは困難で、入院により抗生物質の点滴を2~6週間行う必要があります。
  
ということで、今回の処方は
「心内膜に損傷をきたしやすい心室中隔欠損症患者の歯科治療に際してIEの予防を行う」
ための処方ということになります。
  
  

感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン

IEの予防についてはガイドラインがあります。
感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017年改訂版)
  

IE予防が必要なケース

まず、抗生物質によるIE予防については科学的な根拠は乏しいです。
そのことも踏まえて、ガイドラインで予防投与が推奨されているのは、IE発症時にとくに死亡などの重篤な結果を招く可能性の高い群(高度リスク群)のみです。
表29 小児/先天性心疾患におけるIEの基礎心疾患別リスクと,歯科口腔外科手技に際する予防的抗菌薬投与の推奨とエビデンスレベル
  1. 高度リスク群(感染しやすく,重症化しやすい患者)
    推奨クラスI、エビデンスレベルB
    • 人工弁術後
    • IEの既往
    • 姑息的吻合術や人工血管使用例を含む未修復チアノーゼ型先天性心疾患
    • 手術,カテーテルを問わず人工材料を用いて修復した先天性心疾患で修復後6ヵ月以内
    • パッチ,人工材料を用いて修復したが,修復部分に遺残病変を伴う場合
    • 大動脈縮窄
引用元:感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017年改訂版)
  

抗生物質によるIE予防投与

経口投与が可能かどうか、ペニシリンアレルギーかどうか、泌尿器や消化管の処置かどうかで変わってきますが、基本はアモキシシリンとなります。
βラクタムの中でアモキシシリンが推奨されている理由はいつかありますが、耐性の有無や経口での吸収の良さが理由です。
歯科処置前の抗菌薬の標準的予防投与法について、感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン(2017年改訂版)の表31に記載されています。
いずれも「経口投与が可能な場合」、「処置前 1 時間」に「単回投与」です。
βラクタム系抗菌薬
アレルギーの有無
抗菌薬 投与量 商品名
なし アモキシシリン 50 mg/kg
最大2g
サワシリン®︎、アモリン®︎、
パセトシン®︎、ワイドシリン®︎
あり クリンダマイシン 20mg/kg
最大600mg
ダラシン®︎
アジスロマイシン 15mg/kg
最大500mg
ジスロマック®︎
クラリスロマイシン 15mg/kg
最大400mg
クラリス®︎、クラリシッド®︎
※最大投与量=成人用量
経口投与不可の場合や、また、泌尿器・消化器の場合などについてもガイドラインには詳しく記載されています。
  
  

まとめ

改めて処方を見てみます。
処方内容

  • 年齢:4歳
  • 性別:男
  • 体重:15kg
  • サワシリン細粒10%(一般名:アモキシシリン細粒10%) 7.5g
    1日1回 医師の指示通り 1日分

ガイドライン通りちょうど50mg/kgですね。
来局後、お母さんに聞いてみると、歯科医師の指示は「受診の前に飲んで来てね」と言うことでした。
過去にも経験あるらしく、「心臓が悪く手術もしているので虫歯の治療の前には抗生物質をたくさん飲まないといけないんです。」と理解されていました。
  
副作用は?とも思いましたが、一回飲みきりなので腸内細菌叢に対する影響も少ないのかな?
  
IEに対する抗生物質の予防投与についてエビデンスがそこまでしっかりしているものではありませんが、高度リスク群についてはガイドラインでも推奨されています。
  

保険適応は?

用法・用量が添付文書と異なるので保険適応は怪しいものです。
そもそも、予防投与なので保険は適応されませんね。
院内で投与されるべきなんじゃないかとは思いますが、どうでしょうね。

*1:Infective Endocarditis

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