薬剤師の脳みそ〜くすりと医療制度

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高額療養費と現物給付〜制度の概要と薬局での対応について(平成30年8月変更)

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(平成27年1月21日付の記事でしたが最新の情報に合わせて修正しました)
平成30年8月より70歳以上の方の高額療養費の区分が変更になりました。
現物給付についても少々ややこしいことになりそうです。
この記事では高額療養費に関して、過去の変更部分と現物給費について、復習を兼ねてまとめています。
平成30年8月から変更になった70歳以上の区分については後半にまとめています。
すぐに読みたい場合は目次の「70歳以上の限度額(平成30年8月〜)」をクリックしてください。
  
  

参考:高額療養費制度を利用される皆さまへ|厚生労働省
  
  

高額療養費制度とは?

日本では、国民皆保険制度により、全ての国民は何らかの医療保険に加入するようになっています。
そのため、保険制度の範囲内で行われる医療については、医療費のうち1〜3割を自己負担するだけで済むようになってます。
ですが、病院に長期入院したり、高額な医療を受ける場合、医療保険に加入していても、支払う自己負担は高額になってしまいます。
そのような場合に、家計の負担を軽減するために作られたのが高額療養費制度です。
  

高額療養費制度の対象

高額療養費制度では、「一ヶ月間に同一の医療機関」でかかった自己負担額のうち限度額を超えた部分が支給(返金)されます。
この自己負担限度額は、年齢層・所得に応じて定められています。
原則として、保険者(加入している医療保険)に「高額療養費支給申請書」を提出することで支給されますが、保険者によっては支給申請書なしで自動的に支給される場合もあります。
  
高額療養費制度の対象となるのはあくまでも保険診療における自己負担金額の部分です。
なので、自由診療など医療保険を使用しない医療にかかった金額については制度の対象外となります。
  

同一の医療機関の定義

高額療養費制度の対象となる自己負担金額は「同一月に同一の医療機関」で支払ったものが対象です。
「同一の医療機関」の考え方については少しわかりにくい部分があると思うので簡単にまとめます。

  • 医療機関ごと(医科と歯科は区別)
  • 同じ医療機関でも入院・外来・治療用補装具は区別
  • 院外処方の場合は、薬局での自己負担金額と対応する病院・診療所の自己負担金額を合計する

最後の薬局と対応する病院・診療所についてですが、薬局の領収書には処方箋を発行した医療機関が記入されているのでそれで判断できます。
  

高額療養費の現物給付化

元々、高額療養費は各医療機関の窓口で自己負担金額を支払った後、各月ごとに申請を行い、償還払いという形で払い戻しされる制度でしたが、現在は一定の条件下を満たした人に限られますが、現物給付(各医療機関ごとについて限度額以上の支払いが不要)が可能になっています。
  
2007年4月から入院に対して高額療養費の現物給付が開始されました。
それに続いて2012年4月から外来に対しても高額療養費の現物給付が開始されています。
  
当然、薬局での医療費も現物給付の対象です。
現物給付の条件を満たした方については、個々の医療機関の処方ごとに一ヶ月あたり上限額までの支払いで済むようになります。
  

現物給付の対象とならない部分

高額療養費の現物給付は、21や38、54のような上限管理表で管理を行うわけではなく、個々の医療機関での一ヶ月の自己負担額を管理することしかできません。
そのため、本来であれば合算される薬局と処方元医療機関の自己負担金額はについては、現物給付の対象とならず、後日申請を行う必要があります。
当然、複数医療機関の合算や世帯合算、多数回該当についても現物給付の対象ではありません。
  

自己負担限度額と認定証

高額療養費の現物給付を受けるためには、各医療機関で自身の自己負担限度額を知らせる必要があります。
ですが、70歳以上の場合は、主保険の負担割合から所得区分がある程度判断できるので個人(外来)に限りますが、全て現物給付の対象となります。
  

70歳未満の場合

70歳未満の場合は自己負担限度額を医療機関で知らせるために、

  • 限度額適用・標準負担額減額認定証
  • 高額療養費限度額適用認定証

のいずれかを提示する必要があります。
  
これとは別に、

  • 難病医療費助成制度(指定難病:54)
  • 小児慢性特定疾病医療費助成制度(小児慢性特定疾患:52)

の公費を取得している場合は公費の上限額決定に伴い、世帯収入が明らかになっているので、自動的に医療保険においても高額療養費の現物支給の対象となります。(公費の区分と同様)
  
まとめると以下のようになります。

  • 認定証不所持→高額療養費の現物給付を受けることはできない
  • 高額療養費限度額適用認定証→区分ア~エ
  • 限度額適用・標準負担額減額認定証→区分オ
  • 指定難病・小児慢性特定疾患を取得→区分ア~オ

  

70歳以上の場合

70歳以上の方に関しては負担割合から自己負担限度額をある程度判断することが可能となっており、すべての方が高額療養費の現物給付の対象となります。
自己負担割合から、以下のように絞り込むことが可能です。

  • 3割負担:「現役並みⅠ〜Ⅲ」
  • 1割(2割)負担:「一般」、「低所得Ⅰ〜Ⅱ」

  
1割(2割)負担の場合は「一般」か「低所得Ⅰ〜Ⅱ」のいずれかに当てはまります。
ですが、これ以上は負担割合からは区別できないので、基本的には「一般」として処理を行います。
より低い限度額に当てはまり、窓口で現物給付を受けたい場合は、申請を行い、「限度額適用認定証」または「健康保険限度額適用・標準負担額減額認定証」を取得する必要があります。
  
また、3割負担の場合は「現役並みⅠ〜Ⅲ」のいずれかに当てはまりますが、基本的には「現役並みⅢ」として処理を行います。
この場合も、より低い限度額に該当する方が現物給付に適応させたい場合は「限度額適用認定証」が必要となります。
  
また、70歳未満と同様に、難病医療費助成制度(指定難病:54)の公費を取得している場合は公費の上限額決定に伴い、世帯収入が明らかになっているので、自動的に医療保険においても高額療養費の現物支給の対象となります。(公費の区分と同様)
  
まとめると以下のようになります。

  • 現役並みⅢ:自己負担3割
  • 現役並みⅡ・現役並みⅠ:自己負担3割で「限度額適用認定証」を所持、もしくは難病医療費助成制度の対象
  • 一般:自己負担2割(1割)
  • 低所得Ⅱ・低所得Ⅰ:自己負担2割(1割)で「限度額適用・標準負担額減額認定証」を所持、もしくは難病医療費助成制度の対象

  

「高額療養費限度額適用認定証」と「限度額適用・標準負担額減額認定証」

高額療養費の適用区分を詳細に示すための認定書には「高額療養費限度額適用認定証」と「限度額適用・標準負担額減額認定証」の二種類があります。
この二つの違いは課税の有無です。
  
「高額療養費限度額適用認定証」は課税者(世帯)を対象としています。

  • 70歳未満の方:「区分ア」「区分イ」「区分ウ」「区分エ」
  • 70歳以上の方:「現役並みⅡ」「現役並みⅠ」

の場合が対象となっています。
  
「限度額適用・標準負担額減額認定証」は非課税者(世帯)が対象となります。

  • 70歳以上の方:区分「オ」
  • 70歳以上の方:「低所得Ⅱ」「低所得Ⅰ」

  
  

高額療養費の様々なルール

高額療養費の自己負担限度額は年齢層・所得区分に応じて決められています。
自己負担限度額が低ければ低いほど、医療費の負担が軽減されていることになりますが、年齢層が高く、所得が低い方が自己負担限度額が低くなるようになっています。
  

多数回該当

高額療養費には多数回該当というルールがあり、それに該当する場合は自己負担限度額が減額されます。
多数回該当の条件は「過去12か月で3回以上高額療養費が支給されている場合」で、「4回目以降」が多数回該当の対象となります。
ただし、多数回該当は同一保険者での療養にしか適用されません。
そのため、途中で加入する保険が変わった場合、通算して考えることはできません。
  

複数医療機関の合算・世帯合算

高額療養費には複数医療機関の合算や世帯合算というルールもあります。
単独では限度額に達していなくても、「同一世帯内で同一月」に支払った医療費の自己負担金額を合わせることで限度額を超え、高額療養費の対象となることがあります。
ただし、同一世帯内の定義は住民票とは違って、同じ医療保険に加入している人を指します。
  
複数医療機関の合算や世帯合算の詳しいルールは年齢層によって異なります。
  
  

年齢層ごとの自己負担限度額

年齢層・所得区分ごとの自己負担限度額についてまとめます。
基本的に70歳以上かどうかで分けられており、その中で所得区分に応じた上限額が決められています。
  

70歳未満の限度額

「高額療養費限度額適用認定証」(区分ア〜エ)、「限度額適用・標準負担額減額認定証」(区分オ)を持っている場合、もしくは「指定難病」・「小児慢性特定疾患」の対象となっている場合のみ現物給付の対象となる。            
所得区分限度額多数回該当
252,600円+(総医療費-842,000円)×1%140,100円
167,400円+(総医療費-558,000円)×1%93,000円
80,100円+(総医療費-267,000円)×1%44,400円
57,600円
35,400円24,600円
  
ア〜オ 各所得区分のどこに該当するかは以下の通り判断されます。              
区分該当者
健康保険国民健康保険
標準報酬月額83万円以上旧ただし書き所得*1901万円以上
53万~79万円600万~901万円
28万~50万円210万~600万円
26万円以下210万円以下
市区町村民税の非課税者
  

旧:70歳未満の限度額(〜H26年12月)

参考までに平成26年12月診療分までの旧区分も掲載しておきます。
長くなるので希望する方のみクリックで展開してください。  

世帯合算(70歳未満)

70歳未満の方の医療費を世帯合算するには、各自己負担額の合計が21,000円を超えていることが条件です。
「同一月に同一の医療機関」で支払った自己負担額の合計のうち、21,000円を超えているものについては合算して考えることが可能ですが、超えていないものは合算できません。
  
  

70歳以上の限度額(平成30年8月〜)

平成30年8月以降、70歳以上の高額療養費の区分・限度額は大きく変更されました。
その結果、現役並みについては外来が廃止、区分・限度額は70歳未満と統一されています。
これまでは3割負担であれば「現役並み」の区分と確定していましたが、現役並みがⅠ〜Ⅲに分類されたことで、限度額認定証を申請していないと実際の限度額を確定することができなくなりました。(認定証がない場合は最も高い「現役並みⅢ」として対応)

               
区分限度額
外来(個人)外来+入院(世帯)多数回該当
現役並み252,600円+(医療費-842,000)×1%140,100円
167,400円+(医療費-558,000円)×1%93,000円
80,100円+(医療費-267,000円)×1%44,400円
一般※※18,000円
年間上限:14万4千円
57,600円44,400円
住民税非課税低所得II8,000円24,600円-
低所得I15,000円

※:3割負担で「高額療養費限度額適用認定証」を持っていない場合は「現役並みⅢ」として現物給付
※※:2割負担(1割負担)で「限度額適用・標準負担額減額認定証」を持っていない場合は「一般」として現物給付
  
各所得区分のどこに該当するかは以下のように判断されます。
(平成30年8月以降、70歳以上の高額療養費の区分は大きく変更となり、現役並みについては70歳未満と統一されています。)

                 
区分該当者
年収月額
標準報酬課税所得
現役並み約1,160万円〜83万円以上690万円以上
約770万円〜約1,160万円53万円以上380万円以上
約370万円〜約770万円28万円以上145万円以上
一般約156万円〜約370万円26万円以下145万円未満等
低所得Ⅱ住民税非課税
低所得Ⅰ:年金収入80万円以下等
低所得Ⅰ

  

旧:70歳以上の限度額(〜平成30年7月)

参考までに平成30年7月診療分までの旧区分も掲載しておきます。
長くなるので希望する方のみクリックで展開してください。  
  

世帯合算(70歳以上)

70歳以上の方は高齢給者証が発行されており、75歳以上の方は後期高齢者医療制度に加入しています。
この場合、原則、高額療養費の現物支給の対象となっています。(後で詳しくまとめます)
70歳以上で現役並みの所得に該当しない場合は、通常の上限額(入院+外来(世帯))とは別に、「外来(個人)」の限度額が設定されています。
また、70歳以上の方に関しては21,000円以上を超さなくても合算可能になっています。
  
同一世帯内に70歳以上75歳未満と70歳未満が混在している場合、まずは70歳以上75歳未満の人のみで世帯合算を行い、その後、なお残った自己負担金額と70歳未満の方の自己負担金額の合算を行うことになります。
  
75歳以上の場合、原則、全ての方が後期高齢者医療制度に加入しています。(65歳以上の方も一部加入)
後期高齢者医療制度は社保や国保とは異なる保険者になるため、後期高齢者医療制度に加入している人同士のみで世帯合算を行うことになります。
  
  

まとめ

高額療養費についてまとめてみました。
70歳以上で証明書を持っていない場合は、自動で設定してくれるレセコンも多くあり、理解と実際がなかなか繋がらない人もいるんじゃないかと思います。
ですが、患者さんの医療費に関することなのでしっかり理解しておきたいなと思ってこの記事をまとめました。
  
平成29年8月、平成30年8月と2年連続で70歳以上の方の限度額が上がりました。
現役並み・一般の方のみで低所得の方には影響が出ないようになってはいますが、大きな変化にはなりますので、しっかり理解して対応をして行きたいところですね。

*1:総所得金額等から基礎控除額33万円を控除した額