薬剤師の脳みそ~薬局薬剤師の勉強ブログ~

調剤(保険)薬局の薬剤師が脳内で考えていることや仕事の中で得た知識をまとめるblogです。できるだけ実用的に、わかりやすく、実際の仕事に活用できるような情報になるよう心がけていきます。基本的に薬剤師または医療従事者の方を対象としています。

イニシンク配合錠〜ネシーナとメトグルコの配合剤

平成28年8月4日、厚生労働省の薬食審・医薬品第一部会で6製品の承認が了承されました。
今回は、審議が行われた品目の中から、イニシンク配合錠についてまとめます。
ネシーナとメトグルコの合剤です。
なお、イニシンク配合錠は平成28年9月28日に製造販売が承認されました。
  
  

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平成28年8月4日薬食審・医薬品第一部会での審議品目

今回審議され、承認が了承されたのは以下の通りです。

一つずつまとめていきたいと思います。
  
  

イニシンク配合錠

  • 成分名:アログリプチン安息香酸塩/メトホルミン塩酸塩
  • 製品名:イニシンク配合錠
  • 申請者:武田薬品
  • 効能・効果:2型糖尿病(ただし、アログリプチン安息香酸塩及びメトホルミン塩酸塩の併用が適切と判断される場合に限る)
  • 用法・用量:「通常、成人には1日1回1錠(アログリプチン安息香酸塩/メトホルミン塩酸塩として25mg/500mg)を食直前又は食後に経口投与する。」

  
すでに米国・欧州を含む45カ国で承認済です。
  
  

アログリプチン

アログリプチンはDPP-4阻害薬、ネシーナとして使用されています。
食事摂取により消化管から血中に分泌されるインクレチンの一つであるGLP-1(Glucagon-Like Peptide-1:グルカゴン様ペプチド1)は血糖値を低下させるための様々な働きに関わっています。

  • 膵臓のβ細胞からのインスリンの分泌を促進
  • α細胞からのグルカゴンの分泌を抑制
  • 胃から腸へ食べ物が送られるのを抑制
  • 中枢神経系での食欲抑制

などが主な働きです。
アログリプチンなどのDPP-4阻害薬は、インクレチンを分解する酵素であるDPP-4(DiPeptidyl Peptidase-4)を阻害することでインクレチンの働きを強め、血糖降下作用を発揮します。
  
現在知られているインクレチンにはGLP-1の他にGIP(Glucose-dependent Insulinotropic Polypeptide:グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)があり、GLP-1と同様に膵臓に作用しますが、インスリン分泌促進作用は、GLP-1ほどではないようです。
  
  

メトホルミン

メトグルコ、メデット、グリコラン、そして今は亡きメルビンですね。
メトホルミンはビグアナイド薬(BG:BiGuanide)として長く使用されている歴史のある薬剤です。
非常に面白い作用機序を持つ薬剤なのですが、なかなか複雑なので復習を兼ねてまとめます。
メトホルミンの作用は主にAMP活性化キナーゼ(AMPK:AMP-activated protein Kinase)の活性化によるものです。
AMPKがメトホルミンによりリン酸化されて活性化することで、

  • 肝臓での糖新生抑制
  • 肝臓のインスリンの抵抗性改善
    • 肝臓での脂肪酸合成の抑制
    • 肝臓でのVLDL(Very Low Density Lipoprotein)産生低下
    • ミトコンドリアの脂肪酸β酸化の亢進
  • 骨格筋のインスリン感受性改善
    • GLUT4(GLUcose Transpoter 4)の細胞膜上への移動
などの様々な作用を発現し、効果を発揮します。
  
また、この他にも、消化管からの糖の吸収を抑制する作用も持っています。
  
  

DPP-4阻害薬とメトホルミンは相性がいい?

実はDPP-4阻害薬とメトホルミンの組み合わせは非常に相性がいいということをご存知でしょうか?
簡単に言うと、メトホルミンはGLP-1の分泌を促す効果を持っているということです。
DPP-4阻害薬はGLP-1の分解を抑制することで効果を発揮するわけですから、GLP-1の分泌を促すメトホルミンと組み合わせることでより効果を発揮しやすくなります。
  

メトホルミンによるGLP-1の分泌作用

メトホルミンによるGLP-1分泌作用には以下のような機序が考えられています。

  • 腸管においてプレプログルカゴン(GLP-1前駆物質)の遺伝子発現を増強
  • ASBT(Apical Sodium-dependent Bile acid Transporter:胆汁酸輸送体)を抑制することで胆汁酸の再吸収が抑制され、胆汁酸が小腸L細胞のGタンパク質共役型受容体TGR5に結合することでGLP-1の分泌促進
  • 膵β細胞におけるPPARα(Peroxisome Proliferator-Activated Receptor α)作用を介したGLP-1およびGIP受容体の発現増加

  
これらの機序によりメトホルミンはインクレチンの分泌を促進するというわけです。
  
  

エクメット配合錠とイニシンク配合錠

同じように、DPP-4阻害薬とビグアナイド系薬を組み合わせた製剤として、エクメット配合錠(ビルダグリプチン/メトホルミン)があります。
イニシンク配合錠との違いは、エクメット配合錠は規格が2つあること、用法が「1日2回朝、夕」となっていることです。

  • エクメット配合錠LD(ビルダグリプチン50mg/メトホルミン250mg)
  • エクメット配合錠HD(ビルダグリプチン50mg/メトホルミン500mg)

イニシンク配合錠の1日1回をメリットと考えるか、エクメット配合錠の用量調節できる部分をメリットと考えるか・・・といったところでしょうか?
  
  

武田薬品の糖尿病配合剤シリーズ

武田薬品は糖尿病薬の配合剤を複数取り扱っています。

  • メタクト配合錠LD(ビオグリタゾン15mg/メトホルミン500mg)
  • メタクト配合錠HD(ビオグリタゾン30mg/メトホルミン500mg)
  • ソニアス配合錠LD(ピオグリタゾン15mg/グリメピリド1mg)
  • ソニアス配合錠HD(ピオグリタゾン30mg/グリメピリド3mg)
  • リオベル配合錠LD(アログリプチン25mg/ピオグリタゾン15mg)
  • リオベル配合錠HD(アログリプチン25mg/ピオグリタゾン30mg)
  • イニシンク配合錠(アログリプチン25mg/メトホルミン500mg)

どれも使いどころが難しい気が・・・。
  
  

まとめ

アログリプチンを含む製剤としては、ネシーナとアクトスの合剤であるリオベル配合錠(成分名:アログリプチン安息香酸塩/ピオグリタゾン塩酸塩)があります。
イニシンク配合錠、今更ネシーナとメトホルミンの合剤なんて・・・と思った方もいるかもしれませんが、それぞれの機序を考えるとなかなかいい組み合わせではないでしょうか?
ただ、メトホルミン500mgの1日1回だと、あくまでもネシーナ25mgで効果不十分の場合の切り替えといった選択肢にしかならないような気もしますね・・・。
  
  

参考

「第3章 ビグアナイド薬との併用療法─こんな症例に最適&こんな症例には×」,『日本医事新報』2013.6.29 No.4653,pp.49-55
  
  

薬価基準収載と発売日

平成28年11月18日に薬価収載されました。
イニシンク配合城の薬価は1錠あたり174.20円です。
発売は平成28年11月29日です。
  

イニシンクは新薬として14日の処方制限が

イニシンク配合錠は販売開始から1年間は新薬として14日間の処方制限の対象となります。
すでに発売されているネシーナとメトグルコの配合錠なのに何で?と思われるかもしれませんが、ポイントは承認されている用法です。
メトグルコは「1日1回500mg」という服用方法では承認されていません。
武田としてはメタクトで承認されているので問題ないと判断したのですが、あれはあくまでもグリコラン・メルビン(メトホルミン塩酸塩:GL)の「1日1回500mg」で、メトグルコ(メトホルミン塩酸塩:MT)としては初めてと判断されたとか。
本当ですなね?
そのため、イニシンク配合錠は成分こそネシーナとメトグルコと同じですが、新薬として投与日数制限を受けることになっています。