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薬剤師の脳みそ~薬局薬剤師の勉強ブログ~

調剤(保険)薬局の薬剤師が脳内で考えていることや仕事の中で得た知識をまとめるblogです。できるだけ実用的に、わかりやすく、実際の仕事に活用できるような情報になるよう心がけていきます。基本的に薬剤師または医療従事者の方を対象としています。

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タケキャブ発売~P-CABと従来型PPIの比較

新薬承認情報 副作用

平成27年2月26日、新規プロトンポンプインヒビター(Proton Pump Inhibitor:PPI)であるタケキャブ(一般名:ボノプラザン)の販売が開始されます。
採用となる薬局と多いと思いますが、いつ処方が出てもいいように、世界初となるP-CAB(Potassium-Competitive Acid Blocker:カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)と呼ばれる新規PPIと、従来のPPIとの比較をしておきたいと思います。
  
  
タケキャブについては過去にもまとめています。

重複する内容もありますが、今回は従来のPPIとの比較と懸念される部分に重点をおいてまとめてみました。
  
タケキャブを用いたピロリ除菌パック製剤についてもまとめています。

  

  
  

PPIとP-CABの作用の違い

PPIとP-CABと言うと別の働きの薬剤のように思えますが、どちらもプロトンポンプを阻害することで胃酸分泌を抑制する薬剤です。
そういう意味ではP-CABはPPIの一種と言えると思います。
f:id:pkoudai:20160624192606j:plain
  

薬剤一覧

最初にPPIの一覧をまとめておきます。
  

従来型PPI
  • オメプラゾール(オメプラール錠/オメプラゾン錠 等):ラセミ体
  • ランソプラゾール(タケプロンカプセル/タケプロンOD錠 等)
  • ラベプラゾール(パリエット錠 等)
  • エソメプラゾール(ネキシウムカプセル):オメプラゾールのS体

  

P-CAB
  • ボノプラザンフマル酸塩(タケキャブ)

  
  

作用機序の違い

プロトンポンプを阻害するという意味では同じですが、その機序は異なります。
  

従来型PPIの作用機序

PPIはそのままではプロトンポンプを阻害する活性をもちません。
酸による活性化を受けて初めて作用することができます。
吸収された後、胃の壁細胞までたどり着き、分泌細管内で酸により活性化を受けます。
そこで、細胞表面に発現したプロトンポンプに不可逆的に結合(S-S結合)することで、その働きを阻害します。
  

P-CABの作用機序

P-CABは酸による活性化を必要としません。
また、胃の壁細胞に集まりやすい性質を持っているので、従来のPPIよりも早い段階で分泌細管内で働くことが可能です。
その働きは可逆的で、プロトンポンプにおいて、K+(カリウムイオン)の取り込みを競合的に阻害します。
  
  

安定性の違い

従来型のPPIとP-CABでは酸性下の安定性にも差があります。
  

酸に弱いPPI

酸による活性化を必要とするPPIですが、酸に不安定という特徴も持ち合わせています。
胃酸分泌を抑制するのに、胃酸に弱いというと少々変な気もします。(笑)
なので、現在発売されているPPIはフィルムコート錠やカプセルになっています。
ランソプラゾールのOD錠についても、腸溶顆粒をOD錠としているので、顆粒部分は砕くことができません。
  
胃の壁細胞 分泌細管内で酸による活性を受けるPPIですが、酸に不安定なため、長くとどまることができません。
血中濃度が高い状態であれば、PPIが次々と分泌細管内に補充される状態なので、効果を維持することができますが、血中濃度が低下してしまうと、新たにプロトンポンプと結合できるPPIがなくなってしまいます。
  

酸に強いP-CAB

P-CABは酸により失活することがないので、分泌細管内に留まり、プロトンポンプが細胞表面に発現するのを待ち構えることが可能です。
  
  

代謝の違い

どちらもCYP450(シトクロムP450)を介して代謝を受けますが、その分子種が異なります。
  

PPIの代謝

PPIはCYP2C19により代謝されます。
ですが、CYP2C19は日本人において遺伝子多型があることが知られています。
CYP2C19の発現が多い人(Rapid Metabolizer:RM)ではPPIの血中濃度が上昇しにくく、 逆に発現が少ない人(Poor Metabolizer:PM)では血中濃度が上昇しやすくなります。
  
ちなみに、日本人におけるCYP2C19の遺伝子多型の頻度は、
RMが35%、IMが49%、PMが16%とされています。
※IM:Intermediate Metabolizer(中間型)
  
ちなみに、PPIの中でもそれぞれCYP2C19の影響は異なります。
オメプラゾールは主にCYP2C19で代謝され、CYP3A4でも代謝されます。
ランソプラゾールはCYP2C19とCYP3A4で代謝されます。
ラベプラゾールはCYP2C19でも代謝されますが、主たる代謝経路は非酵素的です。
エソメプラゾールはオメプラゾールよりもCYP2C19に対する寄与率が少ないです。
  
CYP2C19に対する寄与率は、
オメプラゾール>ランソプラゾール>エソメプラゾール>ラベプラゾール
といったところでしょうか。
  
そのため、特にオメプラゾールはクロピドグレル(商品名:プラビックス等)との併用に注意が必要です。
  

P-CABの代謝

P-CABはCYP3A4による代謝を受けます。
CYP2C19にような日本人において遺伝子多型が多くないため、個人差は生じにくいです。
ですが、多くの薬剤の代謝に関わる分子種であるため、相互作用には注意が必要です。
実際、クラリスロマイシン等のCYP3A4阻害剤が併用注意として挙げられています。
  
  

PPIとP-CAB 作用機序の違いのまとめ

以上より、P-CABは従来のPPIと比較して、「早く」「強い」胃酸分泌効果を持つことができます。
その特徴をまとめると、

  • 作用部位への集積性→P-CAB>PPI
  • 酸による活性化→P-CAB:不要、PPI:必要
  • 酸性下での安定性→P-CAB:安定、PPI:不安定
  • プロトンポンプ阻害の様式→P-CAB:競合阻害、PPI:共有結合による不可逆阻害
  • 代謝酵素→P-CAB:CYP3A4、PPI:CYP2C19

となります。
  
  

P-CABと従来型PPI 適応の違いは?

基本的には従来型PPIと同様の適応をもつタケキャブですが、「吻合部潰瘍」、「Zollinger-Elison症候群」、「非びらん性胃食道逆流症」の適応は取得していません。
また、逆流性食道炎に対する投与期間が「通常4週間までの投与とし、効果不十分の場合は8週間まで投与」となっており、他のPPIに比べて短期間になっています。(ほかのPPIは「8週間までの投与」)
  

タケキャブ 規格ごとの効能・効果

他のPPIと同様に、タケキャブは規格により、効能・効果が異なるのでまとめておきます。
  

タケキャブ錠10mg
  • 逆流性食道炎の維持療法
  • 低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制
  • NSAIDS投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制

  

タケキャブ錠20mg
  • 胃潰瘍(8週間まで)
  • 十二指腸潰瘍(6週間まで)
  • 逆流性食道炎(通常4週間、効果不十分の場合8週間)
  • 逆流性食道炎の維持療法(効果不十分の場合)
  • ヘリコバクター・ピロリの除菌の補助

  
  

各PPIの適応と用量

各PPIの適応とそれに対する用量を表にまとめました。

タケキャブネキシウムパリエットタケプロンオメプラール
オメプラゾン
逆流性食道炎初期治療20mg20mg10~20mg※A30mg20mg
維持療法10~20mg※B10~20mg10mg15~30mg※B10~20mg
胃潰瘍20mg20mg10~20mg※C30mg20mg
吻合部潰瘍-
十二指腸潰瘍20mg
Zollinger-Elison症候群-
非びらん性胃食道逆流症-10mg10mg15mg10mg
LDA投与時10mg20mg5~10mg※D15mg-
NSAIDs投与時10mg20mg-15mg-
H.pylori除菌補助20mg/回20mg/回10mg/回30mg/回20mg/回
※A:高用量は「病状が著しい場合及び再発性・難治性の場合」、PPIによる治療で効果不十分な場合は10mg×2、さらに重度の粘膜障害の場合は20mg×2
※B:高用量は「効果不十分の場合」
※C:高用量は「病状が著しい場合及び再発性・難治性の場合」
※D:高用量は「効果不十分の場合」、後発医薬品には適応なし
  
  

P-CABの欠点は?

従来型のPPIに比べて効果が早く・強いとされているP-CABですが、そのことによる問題点も考えられます。
PPIでも多くの問題点があげられています。
これらの問題点はP-CABにおいても同様と予想されるので、復習しておこうと思います。
  

高ガストリン血症

胃酸分泌が強く抑制されると、胃前庭部からのガストリン分泌が増加します。
  

胃酸分泌のリバウンド

この高ガストリン血症状態により懸念されるのが、服用中止後のリバウンドです。
ガストリン分泌が高まった状態で、急に胃酸分泌抑制剤を中止することで、胃酸分泌のリバウンドが起こってしまう可能性があります。
より強く胃酸分泌を抑制するP-CABにおいてはこの症状が起こりやすい可能性もあります。
  

腫瘍の増加

ガストリンは胃カルチノイド腫瘍や各種腺腫を増加させる作用を持ちます。
なので、高ガストリン血症により、これらに悪影響を与える可能性があります。
ちなみに、PPIでは、マウスによる実験では腺腫の増加がみられましたが、ヒトにおける検討ではそのような報告はありませんでした。
  
  

鉄欠乏性貧血

食事中、特に野菜や果物に含まれる非ヘム鉄は胃酸による還元を受けて、小腸付近から吸収されます。
胃酸分泌が抑制された結果、鉄の吸収が下がり、鉄欠乏性貧血が引き起こされるのではないかと考えられましたが、従来型のPPIにおいては、特に問題ないことがわかっています。
  
  

ビタミンB12の吸収低下

ビタミンB12はたタンパクに結合しているため、胃酸によるタンパク質分解を受けて遊離しないと、内因子と結合して吸収されることができません。
そのため、胃酸分泌が抑制されると、ビタミンB12の吸収が抑制されるのではないかと懸念されます。
PPIにおいては、ビタミンB12の吸収低下を引き起こすという結果と、影響ないという結果の両方が報告されています。
ですが、通常であればそれほど問題ないのではないかと言われています。
  
  

骨粗しょう症

胃酸分泌の抑制により、酸性状態で可溶化するカルシウムの吸収が低下することが予想されます。
実際に、PPIの服用による骨粗しょう症の発症や骨折リスクの憎悪化が報告されています。
タケキャブならびに各PPIの添付文書には、その他の注意として、

「海外における複数の観察研究で、プロトンポンプインヒビターによる治療において骨粗鬆症に伴う股関節骨折、手関節骨折、脊椎骨折のリスク増加が報告されている。 特に、高用量及び長期間(1年以上)の治療を受けた患者で、骨折のリスクが増加した。」

と記載されています。
  
  

collagenous colitis

Collagenous colitis(CC)は慢性の水溶性下痢と大腸上皮の膠原線維帯(collagen band)の肥厚を特徴とする病態です。
大腸上皮のプロトンポンプの阻害により、大腸管腔内のpHが上昇した結果、免疫反応により発症するのではないかと考えられています。
PPIにおいては、「顕微鏡的大腸炎(collagenous colitis、lymphocytic colitis)」、「大腸炎(collagenous colitis等を含む)」といった形で副作用として記載されています。
タケキャブには今のところ記載はありませんが、注意は必要かと思います。
  
CCについては過去に記事にしています。

  
  

偽膜性大腸炎

pH上昇により、偽膜性大腸炎の原因とされるクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)の胃腸感染が上昇することが知られています。
タケキャブならびに各PPIの添付文書には、その他の注意として、

「海外における主に入院患者を対象とした複数の観察研究で、プロトンポンプインヒビターを投与した患者においてクロストリジウム・ディフィシルによる胃腸感染のリスク増加が報告されている。」

  
これについても過去記事でまとめています。

  
  

肺炎

PPIの使用により市中肺炎が増加したという報告があげられています。
胃酸分泌を抑制することで胃内細菌叢が変化し、その結果、細菌が肺に侵入するのではないかと考えられているようですが、まだまだ不明な点が多いです。
  
  

まとめ

従来のPPIと比べ、早く強い胃酸分泌抑制効果を発揮するボノプラザンことタケキャブ錠。
命名は、武田(タケダ)のP-CAB(ピーキャブ)ということで、タケキャブです。
重症例、特に急性期の胃腸障害に対しては高い効果が期待できます。
また、ピロリ菌の除菌においても、一次除菌(クラリスロマイシン耐性を含む)・二次除菌ともに高い成功率が報告されています。
※1次除菌:投与4週後の除菌率92.6%(ランソプラゾール3剤併用:75.9%)
少し余談になりますが、この効果って純粋なボノプラザンの胃酸分泌抑制効果によるものなのか、ひょっとしてボノプラザンとクラリスロマイシンが相互作用により互いの血中濃度を上げた結果なのか。
前者だと思いますが、ひょっとすると後者なのかもしれませんね。
  
これは従来のPPIにも言えることですが、強い胃酸分泌抑制がもたらす有害事象も考えられるため、すべてのケースに対して、P-CAB(PPIも)が適しているとは限りません。
薬価も高い(10mg:160.10円、20mg:240.20円)ため、査定の対象となる可能性も高いです。
  
タケキャブは新医薬品のため、2016年2月末(平成28年2月末)までは14日間の投与制限の対象となります。
長期投与の解禁は2016年(平成28年)3月1日からとなるので、それまでは一週間の投与で済むピロリ除菌が主となるかもしれませんね。
ピロリ菌の除菌であれば、リスクの面でも、長期投与にもならないので心配は少ないですし、効果はかなり期待できます。
  
世界初の新規作用機序の薬剤となるため、どのような使われ方をされていくべきなのか、というのはこれからになると思います。
そのあたりを踏まえて、注意深く使用していきたい薬剤ですね。
  
また、製造販売は武田薬品ですが、ムコスタ(一般名:レバミピド)を持つ大塚製薬とコ・プロを結んでいます。
ムコスタと言えば、胃粘膜保護薬の代表的なところなので、タケキャブを大型医薬品として育てていきたいという武田の意気込みが見えますね。