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薬剤師の脳みそ~薬局薬剤師の勉強ブログ~

調剤(保険)薬局の薬剤師が脳内で考えていることや仕事の中で得た知識をまとめるblogです。できるだけ実用的に、わかりやすく、実際の仕事に活用できるような情報になるよう心がけていきます。基本的に薬剤師または医療従事者の方を対象としています。

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ベルソムラ錠とオレキシン〜オレキシン受容体阻害剤という新しい不眠症治療薬

新薬承認情報

平成26年8月1日、薬食審・第一部会でMSDのベルソムラ錠(一般名:スボレキサント)の承認が了承されました。
オレキシン受容体の阻害という、新しい作用機序を持つ不眠症治療薬で、他の薬で十分な効果を得ることができなかった場合でも効果が期待されます。
このオレキシン受容体阻害剤、調べてみるとなかなか面白そうな薬です。
(平成26年9月26日に正式に承認されています。)
  
今回(平成28年11月18日)、突然、薬価収載された10mg錠の登場に伴い、記事に加筆・修正を行いました。
  
  

  
  

従来の睡眠薬

まず、これまでの睡眠薬について簡単にまとめておきます。
現在使用されている不眠症治療薬には、

  • バルビツール酸系
  • ベンゾジアゼピン系
  • 非ベンゾジアゼピン系
  • メラトニン受容体作動薬

があります。
  
  

GABA-A受容体作動薬

中枢神経系における抑制アミノ酸であるγ-アミノ酪酸(GABA)のイオンチャネル型受容体GABA-A受容体を介して鎮静作用を示します。
抑制系を亢進して睡眠を引き起こすため、得られる睡眠の質はあまり良くないとされています。
また、耐性・習慣性や翌日も効果が持続する持ち越し効果(hang over)、認知障害(前向性健忘)が問題とされることもあります。
  

バルビツール酸系

GABA-A受容体のバルビツール酸結合部位に働くことで、不眠や不安症状に対して効果を発揮します。
ですが、高濃度ではGABA-Aを直接活性化する作用を持つため、選択性・治療指数が低く、致死的な副作用を引き起こす危険性があります。
依存性が高いことも問題とされます。
アルコールと同じく、レム睡眠(REM sleep:Rapid Eye Movement sleep、脳波的には覚醒しているが体は眠っている状態)が短くなります。
例)

  • ラボナ(一般名:ペントバルビタール)
  • イソミタール(一般名:アモバルビタール)
  • フェノバール(一般名:フェノバルビタール)など

  

非バルビツール酸系

バルビツール酸系の改良版ですが、やはり習慣性による乱用や依存が問題になりました。
また、催奇性のため販売中止となったものもあります。
例)ブロバリン(一般名:ブロムワレリル尿素)など
  

ベンゾジアゼピン系

バルビツール酸系と同じくGABA-A受容体を介して作用を発揮しますが、結合部位が異なり、ベンゾジアゼピン系結合部位に作用します。
バルビツール酸系とは異なり、単独でGABA-A受容体を活性化することができないため、安全性が高いと考えられます。
バルビツール酸系と比較して、レム睡眠の減少はかなり少ないです。
例)

  • レンドルミン(一般名:ブロチゾラム)
  • ハルシオン(一般名:トリアゾラム)
  • サイレース・ロヒプノール(一般名:フルニトラゼパム)
  • ネルボン・ベンザリン(一般名:ニトラゼパム)など

  

非ベンゾジアゼピン系

ベンゾジアゼピン系とは全く異なる化学構造を持つにも関わらず、似たような作用を発揮する薬物の総称です。
GABA-A受容体のサブタイプであるGABA-Aα1への選択性が高いため、抗不安作用が少なく、依存性が改善されています。
(選択性の高さ:ゾルピデム>ゾピクロン・エスゾピクロン)
耐性も起こりにくいとされていますが、効果はベンゾジアゼピン系と比較して穏やかです。
レム睡眠に影響を与えず、ノンレム睡眠の深い眠りを増やすことが可能です。
例)

  • アモバン(一般名:ゾピクロン)
  • マイスリー(一般名:ゾルピデム)
  • ルネスタ(一般名:エスゾピクロン)

  
  

メラトニン受容体作動薬

視交叉上核のメラトニンMT1/MT2受容体に作用することで体内リズムを改善し、睡眠を促す効果を発揮します。
従来型の睡眠導入剤とは異なり、依存性や体制を生じにくいことから、米国において唯一、向精神薬として規制を受けない睡眠導入剤です。
例)ロゼレム(一般名:ラメルテオン)
  
  

オレキシン受容体阻害薬

今回承認の了承を受けたベルソムラはオレキシン受容体阻害剤です。
自然な眠りを促し、レム睡眠を抑制しないという特徴を持っています。
オレキシンという名前は初耳の方も多いかもしれません。
  
  

オレキシンとは?

オレキシンとは脳内の神経ペプチドの一種で、元々は接触行動(食欲)に関わる因子として注目されていました。
ですが、その後の研究により、オレキシンの産生が不十分な場合に、ナルコレプシーが引き起こされることがわかりました。(オレキシン産生ニューロンの変性や脱落はナルコレプシーの原因となります)
そのことから、オレキシレンが覚醒調整系において重要な役割を担っていることが明らかになりました。
脳内のオレキシンが多いと覚醒し、少なくなると眠くなります。
  
オレキシンにはオレキシンA(orexin A)とオレキシンB(orexin B)の二つのイソペプチドが存在しますが、同じ前駆体から切り出されるペプチドのため、発現する細胞は同一です。
別名をヒポクレチンと言い、オレキシンAはヒポクレチン-1、オレキシンBはヒポクレチン-2に相当します。
  
  

オレキシン受容体とは?

Gタンパク質共役型受容体で、オレキシン1受容体(OreXin 1 Receptor:OX1R)とオレキシン2受容体(OreXin 2 Receptor:OX2R)が存在します。
脳内の組織分布はサブタイプにより異なります。
例えば、背側縫線核(Dorsal Raphe nucleus:DR)ではセロトニン作動性ニューロンに両方の受容体が発現、外背側被蓋核(LateroDorsal Tegmental nucleus:LDT)や脚橋被蓋核(PedunculoPontine Tegmental nucleus:PPT)ではコリン作動性ニューロンにOX1Rのみが発現、GABA作動性介在ニューロンには両方の受容体が発現しています。
OX1RとOX2Rの両方が覚醒・睡眠の調整に関わっています。
(オレキシン2受容体の方が強く関わっているという報告もあります)
  
  

オレキシンによる睡眠調整

体内時計や感情、栄養状態などの影響によりオレキシンは覚醒中枢に放出されます。

  • 体内時計:朝 → オレキシン↑ → 神経細胞活発
  • 感情:気持ちの高ぶり → オレキシン↑ → 神経細胞活発
  • 栄養状態:空腹 → オレキシン↑ → 神経細胞活発

その結果、覚醒中枢が活性化され、睡眠中枢の働きを上回ることで目が覚めます。
逆にオレキシンの働きが小さくなると、睡眠中枢の働きが覚醒中枢の働きをを上回ります。
すると、覚醒中枢やオレキシンの働きを抑制する信号が睡眠中枢からおくられ、脳の活動は沈静化して眠くなるというわけです。
  
  

ベルソムラの成分スボレキサント

スボレキサントはオレキシン受容体阻害剤の中でも、DORA(Dual Orexin Receptor Antagonist/2重オレキシン受容体拮抗薬)に分類されています。
つまり、オレキシン1受容体(OX1R)とオレキシン2受容体(OX2R)の両方を阻害します。
これまでの睡眠導入剤のほとんどは、脳内の抑制系に働き、覚醒を無理やり抑える形で睡眠を促していました。
それに対し、DORAのスボレキサントは覚醒中枢の働きを直接抑制することができるので、より自然な睡眠を促すことが可能と考えられています。
メラトニン受容体作動薬も自然な眠りを引き起こすことができると考えられていますが、体内時計に対する作用なので、情動による覚醒に対しては効果がありませんが、スボレキサントは覚醒系全体に対する効果が期待できます。
  
  

臨床試験の結果

スボレキサントの臨床試験の結果を見てみると、その効果への期待が膨らみます。

  1. 睡眠時間を1時間延長し、入眠時間を30分早めた。(服用開始後12ヶ月)
  2. ベンゾジアゼピン系で見られるような耐性が認められなかった。(服用開始後12ヶ月)
  3. ベンゾジアゼピン系で見られるような依存性(リバウンドや半跳性不眠)が認められなかった。(服用開始後12ヶ月)
  4. ナルコレプシー症状(睡眠発作、情動脱力発作)は認められなかった。
  5. 入眠障害と中途覚醒の両方に効果を示した。
  6. 作用時間は6~8時間程度で持ち越しは認められなかった。(半減期は12時間程度)

  
  

ベルソムラ錠の承認内容

ベルソムラ錠の承認内容についてまとめます。

  • 効能・効果:不眠症
  • 用法・用量:「通常、成人にはスボレキサントとして1日1回20mgを、高齢者には1日1回15mgを就寝直前に経口投与する。」

  
  

食後服用はダメ

注意が必要な点として、食後の服用は避けるという点があります。

用法及び用量に関連する使用上の注意
2.入眠効果の発現が遅れるおそれがあるため、本剤の食事と同時又は食直後の服用は避けること。(食後投与では、空腹時投与に比べ、投与直後のスボレキサントの血漿中濃度が低下することがある。)

  
これについては、薬物動態の項に詳しく記載されています。

薬物動態
2. 食事の影響

  • 日本人データ

本剤40mgを低脂肪食摂取後に単回経口投与した場合、空腹時と比較してスボレキサントのCmaxは23%増加したが、AUCは変化しなかった。Tmaxは1時間延長した。

ということで、血中濃度のグラフが後ろにスライドしてしまうイメージですね。
薬剤の性質上、効果発現が遅れるのは望ましくありません。
夕食から就寝前の服用まで、少なくとも2時間は開けて欲しいところではあります。
投薬時には普段からの夕食から就寝までの時間をチェックしないといけませんね。
夜食は厳禁ですね。
  
  

併用禁忌に注意が必要

スボレキサントはCYP3A4とP糖タンパクの影響を受けるため、薬物相互作用が多く存在します。
特に、CYP3A4を強く阻害する薬剤についてはは併用禁忌となっています。
具体的には、

  • 抗真菌剤
    • イトラコナゾール(イトリゾール等)
    • ボリコナゾール(ブイフェンド)
  • マクロライド系抗生物質
    • クラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド等)
  • HIVプロテアーゼ阻害薬
    • リトナビル(ノービア、カレトラ)
    • サキナビル(インビラーゼ)
    • ネルフィナビル(ビラセプト)
    • インジナビル(クリキシバン)
  • HCV NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬
    • テラプレビル(テラビック)
となっています。
特にクラリスロマイシンとの併用禁忌は注意が必要ですね。
  
  

10mg錠の登場と使用ケース

平成28年11月18日付で薬価基準に収載されたベルソムラ錠10mg。
使い道は何かと思っていたら添付文書が改訂されていますね。

用法及び用量に関連する使用上の注意
4.CYP3Aを阻害する薬剤 (ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾール等)との併用により、スボレキサントの血漿中濃度が上昇し、傾眠、疲労、入眠時麻痺、睡眠時随伴症、夢遊症等の副作用が増強されるおそれがあるため、これらの薬剤を併用する場合は1日1回10mgへの減量を考慮するとともに、患者の状態を慎重に観察すること。

  
相互作用の項にも詳しく記載されています。

併用注意(併用に注意すること)
3. CYP3Aを阻害する薬剤(ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾール等)
臨床症状・措置方法
傾眠、疲労等の本剤の副作用が増強するおそれがあるため、併用する際には1日1回10mgへの減量を考慮するとともに、患者の状態を慎重に観察すること。

  
ということなので、CYP3A阻害剤を併用する際は、10mgの使用を考慮する必要がありますね。
高齢者ならなおさらだと思います。
クラリスロマイシン以外のマクロライド系なども対象になるのではないでしょうか?
併用に伴い、減量を行うというのはイグザレルト(成分名:リバーロキサバン)でもある注意ですね。
10mgの発売は少し先のようです。
  
  

スボレキサントに対する期待と不安

新しい作用機序をに加え、従来の睡眠導入剤が持つ依存・耐性・持ち越し効果なども少ないようなので安全性の面でも優れているのではないかと思います。
また、ノンレム睡眠を増やす効果も認められており、睡眠の質の面でも期待されます。
注意力や記憶力の低下も見られないという報告もあるようです。
良いところを上げていくと、夢の睡眠導入剤に見えてきますね。
  
ですが、やっぱり不安なのはナルコレプシー症状。
臨床試験の結果では問題なかったようですが、ナルコレプシーの原因となるオレキシンの不活化を作用機序とするわけですから、何らかの原因で血中濃度が高まればナルコレプシー症状を引き起こしてもおかしくありません。
実際に動物実験ではナルコレプシー症状が見られたようです。
  
  

FDAで指摘された問題点

実際に高用量では危険という報告もあるようです。
FDAでは30mg、40mgの申請は却下されています。
傾眠の副作用が明らかに多いこと、自殺念慮、自殺行動もあるようです。
このことを踏まえて、米国FDAが認めた基本用量は10mg。
CYP3A4阻害薬を服用している場合は5mgで開始。
それに合わせて、5mg、10mg、15mg、20mgの4規格を承認しています。
平成26年9月26日に日本では正式承認されましたが、おそらくアメリカに先駆けて、日本国内で販売開始されることになりそうです。
FDAが定めた基本用量よりも、日本国内の最小剤型の方が用量が大きく、しかも海外での使用経験もないと言う状態です。
覚醒系全般を抑制していしまうことがどのような症状を引き起こすのか?
まだ、世界で使用されたことのない薬ですから、安全性に対しては無防備にならず、注視する必要がありますね。
OX1受容体拮抗薬が睡眠導入をせず、抗不安薬としての働きを持つとの報告もありますので、DORAであるスボレキサントはそのことにも注意が必要です。
  
販売後、十分な時間が経過しましたが、現時点では心配するような大きな問題は起こっていませんね。
  
  

半減期は長いのに持ち越しが起こらないのは何故?

ベルソムラの半減期は、

  • 単回投与:10時間
  • 反復投与:12時間

となっています。
半減期が長いのに朝の目覚めに問題はないの?
という疑問がありましたが、特に問題はないようです。
当たり前のことですが、半減期というのは血中濃度が半分になる時間で、半減期に近づけば血中濃度が下降していきます。
つまり、起床時間になればスボレキサントの血中濃度はある程度下がっています。
さらに、朝になれば体内のオレキシン濃度が上昇するので、スボレキサントの効果は失われるということです。
ということで、ベルソムラの半減期は長くても、朝の目覚めに問題はないということがわかると思います。
もちろん、腎機能障害等で血中濃度が大幅に上昇してしまうようなケースでは別になると思います。
  
  

「夢」に関する副作用

ベルソムラはレム睡眠を抑制しないという特徴があります。
人間はレム睡眠(浅い眠り)の際に夢を見ます。
これまで使用されていたベンゾジアゼピン系などの睡眠薬には程度の差はありますが、レム睡眠を抑制する効果がありました。
そのため、他の薬剤から切り替えた場合、レム睡眠の時間が増加し、その結果、夢を見ることが増えるということになります。
悪夢の発現頻度は1~5%未満となっています。
精神疾患やストレスを抱えている方で、悪夢が多く見られる場合は薬剤の変更を検討しないといけない可能性がありますね。
  
  

オレキシンの作用から期待される様々な治療

今回、承認されるベルソムラは不眠治療薬ですが、オレキシン受容体をターゲットとする薬剤にはもっと他の効果も期待できるかもしれません。
  
  

依存性に対する効果

オレキシンがナルコレプシーと深く関わっていることは上で述べた通りです。
ナルコレプシーの治療に覚せい剤(アンフェタミン)を用いることがあります。
本来、覚せい剤は強い依存性を持つことで知られていますが、不思議なことにナルコレプシーの治療に覚せい剤を使用しても、依存性が見られないというのです。
  
グラクソ・スミスクラインの実験的オレキシン阻害剤「SB-334867」をアンフェタミンとともにラットに投与すると、ラットの脳に生じるドーパミンの量が減り、薬物依存につながる受容体数の増加がおこりませんでした。
メルクによるスボレキサントの実験でも同様の減少が確認されているようです。
また、ニコチン依存のラットにDORAを投与すると、ニコチン依存が再発しなかったという報告もあります。
  
オレキシンと依存の関係については、オレキシン直接依存に関わるのではなく、ドーパミンが引き起こす依存に関する反応を、オレキシンが関与する覚醒系が強めると考えられています。
  
  

まとめ

このようにオレキシンは覚醒系の抑制という新しい作用を持つことで、これまでとは異なる新しいステージの睡眠治療薬になると考えられています。
また、脳内の様々な場面に覚醒系が関与することから、依存や食欲などに対する効果も期待できるかもしれません。
ですが、裏を返せば、まだまだ未知数の部分も多いと言うことで、使用に関しては慎重に開始していく必要があるのかな、と言うのが個人的な感想でもありますが、新たな作用を使いこなすことで、様々な場面に有効な治療薬ができると言うのはとても楽しみです。
  
懸念すべき点は、FDAがリスクを重視する中、日本はそのまま承認となったことです。
一般的な薬剤では、体格の差から、日本での用量よりもアメリカの用量が多くなっていますが、ベルソムラでは逆です。
ただ、睡眠薬に関しては他の薬剤でもアメリカよりも日本の方が用量が多いケースはあります。
例えばルネスタはアメリカの1mgに対し、日本は2mg(高齢者は1mg)です。
なので、この用量の差がどう影響するのかと言うのはまだ何とも言えませんが、大きな副作用等が出現しないよう、注意して扱う必要があると思います。
そもそも新規作用機序の薬剤ですもんね。
ともあれ、ベンゾジアゼピンに変わる選択肢がひとつ増え、質の高い睡眠を得ることができそうな薬剤が登場したのは心強いですね。
  

平成28年11月18日、10mgが薬価収載

平成28年11月18日に10mg錠が薬価収載されました。

  • ベルソムラ錠10mg:68.00
  • ベルソムラ錠15mg:89.10
  • ベルソムラ錠20mg:107.90