薬剤師の脳みそ~薬局薬剤師の勉強ブログ~

調剤(保険)薬局の薬剤師が脳内で考えていることや仕事の中で得た知識をまとめるblogです。できるだけ実用的に、わかりやすく、実際の仕事に活用できるような情報になるよう心がけていきます。基本的に薬剤師または医療従事者の方を対象としています。

ダクルインザ錠とスンベプラカプセル~新時代の抗HCV薬

平成26年7月4日、ブリストル・マイヤーズが申請していた2つの新規C型肝炎治療薬が承認されました。
1つはスンベプラカプセル100mg(一般名:アスナプレビル/ASV)、もう1つがダクルインザ錠60mg(一般名:ダクラタスビル塩酸塩/DCV)です。
  
  

  
  

日本におけるC型慢性肝炎治療の歴史

C型肝炎ウイルス(HCV)の感染により引き起こされるのがC型肝炎です。
慢性化したC型肝炎は、放置することで肝臓の繊維化が進み、肝硬変・肝臓がんの原因となることが明らかになっています。
ワクチンを作ろうにも、すぐにその構造を変化させてしまうHCVに対しては有効でなく、非特異的にHCVを駆除するインターフェロン(IFN)を用いた治療を行ってきました。
ですが、HCVの遺伝子型(genotype)によりその治療成績は異なり、C型肝炎の日本人の7割が感染しているgenotypeⅠ型ではIFN治療による効果が極めて低くなっています。
そこで、IFNを改良したPEF-IFNが開発されたり、リバビリン(RBV)併用療法が開発されましたが、それでも治療できるのは半分程度でした。
インターフェロンによる治療に影響を与えるのはHCVの遺伝子型だけでなく、患者自身の遺伝子型(IL28Bマイナータイプ)により、IFNが引き起こす免疫反応が変化し、期待通りの効果を発揮できない場合があることもわかりました。
  
  

DAAsの登場

HCVのゲノム解析などが進む中で、HCVの増殖過程で特異的なたんぱく質が発見されました。
そこで、HCV特有の分子を標的とする薬剤、DAAs(Direct-acting Antiviral Agents:直接作用型抗ウイルス薬)が開発されています。
現在、開発中のDAAsには、

  • NS3/4Aセリンプロテアーゼ阻害剤
  • NS5A複製複合体阻害剤
  • NS5Bポリメラーゼ阻害剤

があります。
NS3/4Aセリンプロテアーゼ阻害剤は、すでに発売されているテラビック(一般名:テラプレビル/TVR)やソブリアード(一般名:シメプレビル/SMV)が含まれます。
  
NS3/4Aセリンプロテアーゼ阻害剤の登場により、TVR/PEG-IFN/RBVやSMV/PEG-IFN/RBVの3剤併用療法が可能となり、SVR率(治療半年後にHCV陰性となっている率)は7割まで高めることが可能となりました。
現在、SMV/PEG-IFN/RBVの3剤併用療法がC型肝炎治療の第一選択となっています。
  
  

IFN治療の問題点

インターフェロンには様々な副作用があります。
発熱、頭痛、倦怠感、筋肉痛、関節痛、インフルエンザ様症状、うつ、食欲不振、不眠、脱毛、間質性肺炎、糖尿病の悪化など。
そのため、高齢者や糖尿病患者のように、これらの副作用に対する認容性が低い場合には、IFN治療を行えないケースもあります。
  
HCVの感染は血液を介して行われます。
日本の場合、輸血や医療現場の不衛生により感染が起こったため、C型慢性肝炎の患者層は高齢者が多いという傾向になっています。
(若年層では薬物乱用による注射の回し打ちや不衛生なピアス処置による感染も問題になっています)
その結果、IFNを使用しない治療方法が待ち望まれています。
  
  

インターフェロンフリーの坑HCV療法

HCVに対して、特異的な効果を発揮するDAAsですが、単独での治療はできません。
最初に述べたように、HCVはすぐにその構造を変化することが可能なので、数日で耐性を持ってしまうためです。
今まではNS3/4Aセリンプロテアーゼ阻害剤しか存在しなかったため、IFNとの併用が不可欠でした。
  
今回承認された2つのDAAs、スンベプラはHCV NS3/4Aセリンプロテアーゼ阻害剤で、ダクルインザは国内初となるHCV NS5A複製複合体阻害剤です。
今回、この2剤の併用療法が認められたことで、ついにインターフェロンフリー、つまりIFNを用いないC型慢性肝炎治療が保険適応となりました。
単独ではすぐに耐性を身に着けてしまうHCVですが、複数を組み合わせることで耐性化を抑制し、治療を行うことが可能となりました。
  
これまでのC型肝炎治療にはインターフェロンの併用が不可欠でした。
ですが、今回登場するインターフェロンフリーの治療方法はIFN療法を行えない方々や効果を発揮しなかった方々にとって、待ちに待ったものというわけです。
  
  

耐性化と多剤併用

HIVや結核、非結核性抗酸菌などでも作用機序のことなる薬剤の多剤併用療法が行われますが、これは原因となるウイルスや菌の耐性化を抑えると同時に治療効果を高めるために行われます。
あるウイルスにA薬剤を使用した場合に耐性を獲得する確立が10%、B薬剤を使用した場合に耐性を獲得する確立が5%とした場合。
二つを併用することで、ウイルスが途中でA薬剤に耐性をもったとしても、そのほとんどはB薬剤によって倒され、B薬剤に耐性をもったとしても、そのほとんどはA薬剤によって倒されます。
単純に考えれば、その両方に耐性を獲得する確立はお互いを乗じた0.5%となります。
それ以外には両方、もしくはどちらかの薬剤が効果を発揮する訳ですから、耐性化したものを残すことなく倒すことが可能というわけです。
このように複数の薬剤を組み合わせることで、耐性化を抑制し、治療効果を高めることが可能となるわけです。
  
  

スンベプラ、ダクルインザの作用機序

前述したようにスンベプラはテラビックやソブリアードと同じNS3/4Aセリンプロテアーゼ阻害です。
ダクルインザはHCVの複製過程で重要なNS5A複製複合体の形成を阻害することでHCVの増殖を抑制します。
ターゲットであるNS5Aの変異により耐性を生じることがわかっていますが、NS5Aの変異と言えばIFNの効果にも関わる部分です。
  
  

NS5Aの変異とインターフェロン、ダクラタスビルの効果

NS5Aのアミノ酸配列変異が二箇所以上、特にY93とL31に変異が起こることでダクラタスビルの効果が下がることが知られています。
逆にIFN治療においては、genotype Ⅰbの内、NS5Aの配列に変異がない野生型(Wild Type)にはインターフェロンの効果がなく、変異型には効果があることが知られています。
これらを考えると、NS5A阻害剤は万能ではないですが、インターフェロン無効例に対しては有効な治療方法とも言えます。
  
  

スンベプラ、ダクルインザの製品概要

スンベプラとダクリンザは二剤併用療法(DCV/ASV併用療法)でのみ承認されています。
ゲノタイプ1型でインターフェロン未治療、もしくは失敗した人が対象となっています。
残念ながら2型には使用できないということになります。
また、再燃例についても適応がないと言うことになりますね。
  
  

スンベプラカプセル100mg

まずはスンベプラカプセルから。
  

効能・効果

セログループ1(ジェノタイプ1)のC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変における次のいずれかのウイルス血症の改善

  1. インターフェロンを含む治療法に不適格の未治療あるいは不耐容の患者
  2. インターフェロンを含む治療法で無効となった患者

  

用法・用量

通常、成人にはアスナプレビルとして1回100mgを1日2回経口投与する。
本剤はダクラタスビル塩酸塩と併用し、投与期間は24週間とする。
  
  

ダクルインザ錠60mg

続いて、
  

効能・効果

セログループ1(ジェノタイプ1)のC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変における次のいずれかのウイルス血症の改善

  1. インターフェロンを含む治療法に不適格の未治療あるいは不耐容の患者
  2. インターフェロンを含む治療法で無効となった患者

  

用法・用量

通常、成人にはダクラタスビルとして1回60mgを1日1回経口投与する。
本剤はアスナプレビルと併用し、投与期間は24週間とする。
  
  

DCV/ASV併用療法の治療成績

DCV/ASV併用療法でSVR24(投与終了後24週でHCV-RNAが検出限界を下回る)を達成したのは84.7%(188/222例)でした。
その内訳は、

  • IFNを含む治療法に不適格の未治療患者/不耐容患者:87.4%(118/135例)
  • 前治療無効患者:80.5%(70/87例)

となっています。
  
この結果をSMV/Peg-IFNα-2a/RBVでの初回治療のSVR24達成率が88.6%と比較すると、DCV/ASV併用療法の未治療患者に対する効果(87.4%)はほぼ同じで、IFNフリーでも、3剤併用療法に匹敵する効果を発揮できると言うことになります。
全治療無効例は、SMV/Peg-IFNα-2a/RBVが50.9%、DCV/ASV併用療法が80.5%で、DCV/ASV併用療法が圧倒的に優れているという結果になっていますが、SMV/Peg-IFNα-2a/RBVの場合、前治療でもIFNを使用しているわけで、IFN治療からIFNフリーに変更となるDCV/ASV併用療法の方が優れているのは当然かもしれません。
  
また、肝硬変による治療効果への影響もほとんどないとされています。
臨床試験では、

  • 代償性肝硬変なし 84.0%(168/200例)
  • 代償性肝硬変あり 90.9%(20/22例)

となっており、後者の症例数が少ないことを踏まえてもほぼ差がないと予想されると思います。
  
  

まとめと問題点

IFNフリーであるDCV/ASV併用療法は、副作用によりインターフェロンが使用できない方でも可能な治療方法です。
また、IFN無効例にも効果が期待できます。
さらには、IFNで問題となる副作用を回避することが出来ると言うことなしのように見えますが、問題点もあります。
  
  

副作用

重大な副作用として肝機能障害、他にも複数の副作用が報告されています。
ALT(GPT)増加:17.6%、AST(GOT)増加:14.1%、頭痛:12.9%、発熱:11.8%、好酸球増加症:8.3%、下痢:6.7%、鼻咽頭炎:5.1%。
IFNを用いた治療に比べれば副作用は少ないかもしれませんが、一般的に考えれば決して少ないとは言えません。
  
  

薬物相互作用

両剤とも様々な薬物代謝酵素の影響に関与しています。
これを見るとお互いがお互いに相互作用を起こし、血中濃度を維持していることが想像できます。
また、併用禁忌となる薬剤があり、アスナプレビルが非常に多いです。
結局のところ、併用するので合わせて把握する必要がありますが、治療期間中はかなり注意が必要となります。
下記に疾患名と合わせて薬剤をまとめたので参考にしてください。
スンベプラの代わりに、ソブリアードが使えれば、併用禁忌薬剤はぐっと減るんですけどね~。(ソブリアードはエファビレンツ、リファンピシン、リファブチンのみ)
  
  

アスナプレビル(スンベプラ)

アスナプレビルの薬物相互作用の機序は複雑です。
アスナプレビルは、

  • CYP3A
  • P糖蛋白(P-gp)
  • 有機アニオントランスポーター(OATP)1B1
  • OATP2B1

の基質です。
  
また、

  • CYP2D6
  • OATP1B1
  • OATP1B3
  • OATP2B1
  • P-gp

に対する阻害作用を持ち、

  • CYP3A4

に対する誘導作用も持っています。
  
併用禁忌薬剤

  • アスナプレビルの血中濃度上昇
    • アゾール系抗真菌薬:イトラコナゾール(イトリゾール)、フルコナゾール(ジフルカン)、ホスフルコナゾール(プロジフ)、ボリコナゾール(ブイフェンド)、ミコナゾール(フロリード)
    • マクロライド系抗生物質:クラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)エリスロマイシン(エリスロシン)
    • Ca拮抗薬:ジルチアゼム(ヘルベッサー)、ベラパミル塩酸塩(ワソラン)
    • CYP3A阻害剤(抗HIV薬に利用):コビシスタット(スタリビルド)
    • HIVプロテアーゼ阻害剤:リトナビル(ノービア)、アタザナビル硫酸塩(レイアタッツ)、インジナビル硫酸塩エタノール付加物(クリキシバン)、サキナビルメシル酸塩(インビラーゼ)、ダルナビルエタノール付加物(プリジスタ)、ネルフィナビルメシル酸塩(ビラセプト)、ホスアンプレナビルカルシウム水和物(レクシヴァ)、ロピナビル/リトナビル(カレトラ)
    • 非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(リルピビリン塩酸塩を除く):エファビレンツ(ストックリン)、エトラビリン(インテレンス)、ネビラピン(ビラミューン)
  • アスナプレビルの血中濃度低下
    • 抗結核薬:リファンピシン(リファジン)、リファブチン(ミコブティン)
    • 抗てんかん剤:フェニトイン(アレビアチン)、カルバマゼピン(テグレトール)、フェノバルビタール(フェノバール)
    • ステロイド:デキサメタゾン全身投与(デカドロン)
    • ナルコレプシー治療薬:モダフィニル(モディオダール)
    • 肺高血圧治療薬:ボセンタン水和物(トラクリア)
    • 健康食品・サプリメント:セイヨウオトギリソウ(St.John's Wort,セント・ジョーンズ・ワート)含有食品
  • アスナプレビルの肝臓への取り込み低下
    • 免疫抑制剤:シクロスポリン(サンディミュン)
  • 併用薬の血中濃度上昇
    • 抗不整脈:フレカイニド(タンボコール)、プロパフェノン(プロノン)
  

ダクラタスビル(ダクルインザ)

ダクラタスビルは、

  • CYP3A4
  • P-gp

の基質です。
  
また、

  • P-gp
  • OATP1B1
  • OATP1B3
  • 乳癌耐性蛋白(BCRP)

の阻害作用を持っています。
  
併用禁忌薬剤

  • ダクラタスビルの血中濃度低下
    • 抗結核薬:リファンピシン(リファジン)、リファブチン(ミコブティン)
    • 抗てんかん剤:フェニトイン(アレビアチン)、カルバマゼピン(テグレトール)、フェノバルビタール(フェノバール)
    • ステロイド:デキサメタゾン全身投与(デカドロン)
    • 健康食品・サプリメント:セイヨウオトギリソウ(St.John's Wort,セント・ジョーンズ・ワート)含有食品
アスナプレビルに準ずる形なので、そちら(スンベプラカプセル)の方で十分にチェックしていれば問題ないですね。
  
  

発がんの抑制効果は?

インターフェロンを用いた治療では、SVRに関わらない発癌抑制効果が知られています。
これは、IFNの抗腫瘍作用、血管新生抑制作用、免疫賦活作用によるものと考えられています。
  
インターフェロンフリーの治療では、発癌効果があるかどうかがわかっていません。
日本人に多く見られる、高齢で線維化が進んでいる症例、つまり発癌に近い症例では確実に発癌効果があるとわかっているインターフェロンを用いた治療法の方が適しているのかもしれません。
  
  

耐性化の問題

最後にやはりこれでしょう。
DAAsの問題点でもありますが、IFNと異なり、特定の分子をターゲットとするDCV/ASV併用療法については耐性化が一番の問題となります。
DCV/ASV併用療法の治療効果が優れていると言ってもSVR24の達成率は84.7%で、それ以外のおよそ15%の患者さんにはHCVが残り、そのほとんどはNS3/4Aセリンプロテアーゼ阻害剤とNS5A複製複合体阻害剤に耐性を持ってしまうことが想像できます。
その場合、再度治療を行おうとしても、最悪、DAAsのうち二つが効果なしと言う状況になってしまうかもしれません。
  
来年にはNS5Bポリメラーゼ阻害剤であるソホスブビル(SOF)とNS5A複製複合体阻害剤のレジパスビル(LDV)の配合剤が発売予定です。
国内臨床試験では、ゲノタイプ1型に対し、リバビリン併用でほぼ100%、配合剤単独(RBVなし)で99%がSVR12を達成したとされています。
今回のDCV/ASV併用療法で失敗し、NS5A複製複合体阻害剤に耐性がついてしまうと、打ち手がなくなる可能性もあるので、どうすべきかは慎重に考慮する必要があります。
  
  

IFNフリーの時代

今回のDCV/ASV併用療法の登場でIFNを使用しないインターフェロンフリーの治療が可能となり、さらに、その効果はNS3/4Aセリンプロテアーゼ阻害剤とPEG-IFN、RBVの3剤併用療法とほとんど同じです。
IFN療法で失敗した方や、副作用で断念したり、高齢のため治療を諦めた方にとって朗報になったのではないでしょうか?
さらに来年にはほぼ完治が期待できるSOF/LDVの配合剤とRBVの併用療法、さらにはSOFとRBVによるゲノタイプ2型治療も登場することが予定されています。
IFNなしでは治療できなかった、つらいC型慢性肝炎の治療が経口剤による安心な治療方法に変わっていきますね!