薬剤師の脳みそ

調剤(保険)薬局の薬剤師が日々の仕事の中で得た知識や新薬についての勉強、問題を解決する際に脳内で考えていることについてまとめるblogです。できるだけ実用的に、わかりやすく、実際の仕事に活用できるような情報になるよう心がけていきます。基本的に薬剤師または医療従事者の方を対象としています。

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SGLT2阻害薬その2〜SGLT1/2阻害薬

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昨日のつづきです。
SGLT2阻害薬その1〜スーグラ承認 - 薬剤師の脳みそ

SGLT1/2阻害薬のLX4211(レキシコン)が開発中と紹介しました。
SGLT2阻害剤はわかるけど、SGLT1阻害剤ってなんでしょう?
その説明の前に、もう少し詳しくSGLT2阻害剤を掘り下げていきます。

SGLT2阻害剤の働き

SGLT2(Sodium-Glucose Transporter 2)は近位尿細管において原尿から糖分を再吸収します。
正常な人の血糖値は160~180mg/dL以下ですが、それくらいの血糖値から排出される原尿では、SGLT2の働きによりすべての糖が再吸収されます。
なので、正常範囲の血糖値の人の尿中に糖が出現することはありません。
血糖が上がり糖尿病と呼ばれる状態になってくると、再吸収しきれない糖が尿中に出現してきます。
糖がどんどん排出されるだけであれば、血糖値はそれ以上悪くはならないのですが、原尿中の糖の増加に伴い、SGLT2の発現も増加し、糖の再吸収の閾値は最大で240mg/dLくらいまで上昇してしまいます。
そのため、糖尿病の患者さんでは、高血糖が持続、どんどん悪化してしまうわけです。
このことからもSGLT2が糖尿病治療薬のターゲットとしてふさわしいことがよくわかると思います。

また、SGLT2は近位尿細管の特定部分に局在しているため、ターゲットにしやすいということもあります。

SGLT1とSGLT2

SGLT1は近位尿細管の広い部分に加え、腸管にも存在しています。
そのため、SGLT1を阻害することで消化管での糖の吸収まで阻害できるのですが、反面、下痢を引き起こす可能性があります。
また、SGLT1による腸内での働きがインクレチンの分泌にも関係していると考えられています。
以上からSGLT2のみにターゲットを絞って阻害するのが最も効率的だと判断したようです。

あれ?これじゃ全然SGLT1阻害剤の必要性が感じられませんね。
こんなデータがあります。
通常、尿細管でグルコースの再吸収は180g/日です。
そのうち、145g/日がSGLT2を介する再吸収です。
SGLT2阻害薬を投与することで尿中に排泄されるグルコースは55~60g/日。
あれ?おかしいですね。
SGLT2を完全に抑制できれば145g/日排泄されるはずです。
これではSGLT2阻害剤は尿糖再吸収抑制作用の35%~40%程度しか発揮していないことになります。
SGLT2阻害剤の量をどれだけ増やしても再吸収を抑制できる糖の量はすぐに頭打ちとなってしまいます。
これはなぜでしょうか?

SGLT1を阻害する必要性

その答えは・・・。
SGLT2を阻害すると代償的にSGLT1を介して尿糖再吸収が起こるためです。
SGLT1によるグルコースの再吸収は最大で120g/日程度になるのじゃないかと予想されています。
なので、SGLT2を阻害するだけでなくSGLT1も阻害することができれば、より糖の排泄を促進することが可能になるというわけです。
そこで問題になるのが上でも述べた消化器症状やインクレチン分泌です。
LX4211ではそれをどのようにクリアしているかというと・・・。
LX4211はSGLT1に対してはPartial inhibitor(部分阻害剤)として働いているのです。
そのため、SGLT1を完全に阻害せず効果を発揮することが可能となっています。

ちなみに、田辺三菱製薬/第一三共のカナグリフロジンもSGLT1のPartial inhibitorのようです。
なので、カナグリフロジンやLX4211は他のSGLT2阻害剤よりも強力な血糖降下作用を持つことが予想されます。

さらに、LX4211については新血管イベントのリスク因子を抑制するという研究結果も報告されています。
血糖降下作用に加えて、体重減少、収縮期血圧の低下です。
今後は他のSGLT阻害剤でも同様の報告が上がってくると思うので楽しみです。

SGLT2阻害剤によるリスク

最後にSGLT2阻害剤の不安材料についてもまとめておきます。

発癌リスク

アストラゼネカ/ブリストル・マイヤーズ/小野薬品工業のダパグリフロジンは欧州で発売されていますが、米国FDAは承認を見送りました。
その理由は乳がん・膀胱がんの発症リスクを否定できないため。
先ほど述べた田辺三菱製薬/第一三共のカナグリフロジンは米国FDAから骨関連有害事象の追跡調査を要望されているようです。

ケトン体の増加

また、SGLT2阻害剤の効果により糖が排出されると体はエネルギー源を失うため、脂肪をその代わりとしますが、その際、肝臓でケトン体を生成します。
インスリン分泌がある程度あれば問題ないのですが、そうでない場合、ケトアシドーシスを起こす危険があります。
利尿増加による脱水も大きなリスクの一つになります。

SGLT2阻害剤の使用に適した人は?

やせ型の人の場合、筋力低下に繋がる危険性。
高齢者の場合、利尿増加による脱水の危険性。
糖尿病の重症度が高い場合や1型糖尿病の場合はケトアシドーシスの危険性。
以上をまとめると、

  • 肥満
  • ある程度血糖値が高く(尿糖が多い)
  • インスリン分泌がある

というのが適した対象となる薬剤ということになりますね。


各社がどのような特徴をアピールしてくるか非常に楽しみですね。

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