薬剤師の脳みそ〜くすりと医療制度

調剤(保険)薬局の薬剤師が日々の仕事の中で得た知識や新薬についての勉強、問題を解決する際に脳内で考えていることについてまとめるblogです。できるだけ実用的に、わかりやすく、実際の仕事に活用できるような情報になるよう心がけていきます。基本的に薬剤師または医療従事者の方を対象としています。

JAK阻害薬 ゼルヤンツ錠5mg(H30.5.25更新)

新人薬剤師さんへ
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JAK阻害剤のゼルヤンツ錠(成分名:トファシチニブ)についてまとめます。
平成25年3月25日付で承認(適応:関節リウマチのみ)されています。
また、平成30年5月25日付で潰瘍性大腸炎に関する適応が追加されました。
  
  

  
  

ゼルヤンツ錠

  • 商品名:ゼルヤンツ錠5mg
  • 成分名:トファシチニブクエン酸塩錠
  • 申請者:ファイザー
  • 効能・効果①:「既存治療で効果不十分な関節リウマチ」
  • 用法・用量①:「通常、トファシチニブとして1回5mgを1日2回経口投与する。」
  • 効能・効果②:「中等症から重症の潰瘍性大腸炎の寛解導入及び維持療法(既存治療で効果不十分な場合に限る)」
  • 用法・用量②:「導入療法では、通常、成人にトファシチニブとして1回10mgを1日2回8週間経口投与する。なお、効果不十分な場合はさらに8週間投与することができる。維持療法では、通常、成人にトファシチニブとして1回5mgを1日2回経口投与する。なお、維持療法中に効果が減弱した患者では、1回10mgの1日2回投与に増量することができる。また、過去の薬物治療において難治性の患者(TNF阻害剤無効例等)では、1回10mgを1日2回投与することができる。」

  

トファシチニブの作用機序

トファシチニブはJAK阻害薬に分類されています。
JAK阻害薬は細胞質に存在する非受容体型チロシンキナーゼであるヤーヌスキナーゼ(JAK*1)ファミリー(特にJAK1とJAK3)を阻害する作用を持っています。
JAKの活性化により開始するシグナル伝達はリンパ球の活性化、機能分化および増殖に重要な役割を果たします。
トファシチニブはそれを抑制することで抗リウマチ作用を発揮します。
  

JAKの働き(JAK-STATシグナル伝達経路)

トファシチニブが阻害するJAKについてもう少し詳しく解説します。
JAKを含む非受容体型チロシンキナーゼの多くは、細胞外領域を持たず細胞質側から細胞膜に結合しており、細胞内側の末端にチロシンキナーゼ部位をもつ構造です。
細胞膜表面に存在する受容体に免疫グロブリンやサイトカイン等が結合すると、細胞質内で受容体タンパク質に結合しているJAKが活性化します。
活性化したJAKはまず受容体をリン酸化し、その後、受容体に結合している下流分子であるシグナル伝達兼転写活性化因子(STAT*2)もリン酸化させます。
その後、リン酸化されたSTATが種々の反応を引き起こしていくというわけです。
  
JAKは受容体とSTATの両方をリン酸化することから、二面神Janus(ヤーヌス)にちなんで「Janus kinase」(ヤーヌスキナーゼ)と呼ばれます。
  

新規作用機序の抗リウマチ薬として承認

トファシチニブの分子量は312.4(クエン酸塩として504.5)と小分子であるため経口投与が可能となっています。
JAK阻害という、既存の疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs*3)とは異なる、全く新しい作用機序です。
  

あくまでもセカンドラインでの使用

多くの生物学的製剤と同様にメトトレキサート(MTX*4)のセカンドラインとして使うことができますが、あくまでもセカンドラインで第一選択薬ではありません。
「効能・効果」を見ても明らかですが、「効能又は効果に関連する使用上の注意」には以下のように記載されています。
- 関節リウマチ:過去の治療において、メトトレキサートをはじめとする少なくとも1剤の抗リウマチ薬等による適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな症状が残る場合に投与する。

  • 潰瘍性大腸炎:過去の治療において、他の薬物療法(ステロイド、免疫抑制剤又は生物製剤)による適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな臨床症状が残る場合に投与すること。

  

リウマチ治療においてはMTXなどとの併用もOK

単剤療法のほか、MTXなど他のDMARDsと併用も可能です。
生物学的製剤、あるいはアザチオプリン、シクロスポリンなどの強力な免疫抑制薬との併用は認められていません。
  

感染症には注意が必要

最も注意すべきは「重篤な感染症」です。
そのほか、上気道感染症、頭痛、下痢、鼻咽頭炎が多くなっています。
添付文書には、感染症について十分な経験を持つ医師が使用することとともに、警告として記載されています。
警告
  1. 本剤投与により、結核、肺炎、敗血症、ウイルス感染等による重篤な感染症の新たな発現もしくは悪化等が報告されており、本剤との関連性は明らかではないが、悪性腫瘍の発現も報告されている。本剤が疾病を完治させる薬剤でないことも含め、これらの情報を患者に十分説明し、患者が理解したことを確認した上で、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。
    また、本剤投与により重篤な副作用が発現し、致命的な経過をたどることがあるので、緊急時の対応が十分可能な医療施設及び医師が使用し、本剤投与後に副作用が発現した場合には、主治医に連絡するよう患者に注意を与えること。
  • 感染症
    • (1)重篤な感染症:敗血症、肺炎、真菌感染症を含む日和見感染症等の致死的な感染症が報告されているため、十分な観察を行うなど感染症の発症に注意すること。
    • (2)結核:播種性結核(粟粒結核)及び肺外結核(脊椎、脳髄膜、胸膜、リンパ節等)を含む結核が報告されている。結核の既感染者では症状の顕在化及び悪化のおそれがあるため、本剤投与に先立って結核に関する十分な問診及び胸部レントゲン検査に加え、インターフェロン-γ遊離試験又はツベルクリン反応検査を行い、適宜胸部CT検査等を行うことにより、結核感染の有無を確認すること。結核の既往歴を有する患者及び結核の感染が疑われる患者には、結核等の感染症について診療経験を有する医師と連携の下、原則として本剤の投与開始前に適切な抗結核薬を投与すること。
      ツベルクリン反応等の検査が陰性の患者において、投与後活動性結核が認められた例も報告されている。

  • 関節リウマチ患者では、本剤の治療を行う前に、少なくとも1剤の抗リウマチ薬等の使用を十分勘案すること。また、本剤についての十分な知識とリウマチ治療の経験をもつ医師が使用すること。

  • 潰瘍性大腸炎では、本剤の治療を行う前に、少なくとも1剤の既存治療薬(ステロイド、免疫抑制剤又は生物製剤)の使用を十分勘案すること。また、本剤についての十分な知識と潰瘍性大腸炎治療の経験を持つ医師が使用すること。
  •   
    リウマチ学会の懸念
    新作用機序ということでその効果に期待が高まるトファシチニブですが、日本リウマチ学会は安全性を懸念しています。
    トファシチニブについて(日本リウマチ学会からのお知らせ)
    米国においては、適応はメトトレキサートで効果不十分または不耐容で中等度から重度の関節リウマチとされています。承認用量は 5mg/day(1日2回)投与であり、10mg/day(1日2回)投与に対しては安全性の面から承認をされませんでした。米国では、その高い有効性からメトトレキサートに次ぐセカンドラインとして使うことができますが、未だ安全性の点で十分なデータがないこと、薬価の問題などにより、臨床現場では生物学的製剤の効果不十分な症例が主たる使用対象となっていると聞いております。
    一方、重篤な有害事象の中で注目を集めているのは感染症であり、細菌感染症が最多です。そして、重篤感染症発現率は10mg投与群では時間依存的に増加します。また、結核発現率は、10mg投与群ではTNF阻害薬に匹敵し、その約1/3は肺外結核です。帯状疱疹発現率も高く(4.315/100患者年)、その他のウイルス感染症などの合併も報告をされています。また、発癌に関しては、トファシチニブが12ヶ月投与された3328例の関節リウマチ患者において、11例の固形癌及び1例の悪性リンパ腫が発生したのに対して、809例のプラセボ群では0例であったことが報じられております(American College of Rheumatology, Hotline December 14, 2012)。さらに、トファシチニブ曝露期間とともに悪性腫瘍発現率が上昇する傾向もみられています。また、さらに高用量(15mg/day)が用いられた腎臓アロ移植の臨床試験では、Epstein-Barrウイルス(EBV)陽性の悪性リンパ腫の合併が報告されています。このため、米国食品薬品局(FDA)は、トファシチニブは、用量依存的に重篤感染症のリスクを有していること、長期曝露時の悪性腫瘍発生のリスクや免疫抑制に伴うリンパ増殖性疾患のリスクが上昇する可能性があること、などを指摘し、注意を喚起しています。
    FDAではMTX効果不十分での適応なのに、日本国内では既存療法で効果不十分、つまりMTX以外のどの薬が効果不十分でも適応となります。
    また、用量依存的に感染症、特に肺外結核を増やしてしまうため、米国と同じ5mgを1日2回という用量で問題がないかどうか。
    新作用機序で生物学的製剤に近い効果が期待できるが、経口投与が可能であるため容易に使用できてしまうということ。
    こういった注意点も頭に入れておく必要があると思います。
      

    潰瘍性大腸炎に対する適応追加

    平成30年5月25日付で潰瘍性大腸炎に対する適応が追加になっています。

      

    まとめ

    安全性の面で懸念があることは拭い去れませんが、感染症に対する対策ができれば、有意義な効果を発揮してくれるはずです。
    JAK阻害薬は潰瘍性大腸炎などに対する効果も期待できるので今後が楽しみですね。(←適応追加となりました)

    *1:Janus Kinase

    *2:Signal Transducers and Activator of Transcription

    *3:Disease Modifying Anti-Rheumatic Drugs

    *4:MeThotreXate